表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/152

お忍びです

 ぶかぶかな服装で授業に出るわけにはいかないため、俺は服屋にやってきた。

 私服で授業を受けるのもどうかと思うけど、一応エリーナ先生の許可は取ってある。


「いらっしゃいませ~。今日はひとりでお買い物に来たのかな~?」


 落ち着いた雰囲気の店内に入ると、女性店員がにこにこしながら声をかけてきた。


「はい。ひとりで来ました」

「偉いねぇ~」

「ありがとうございます。ところで、子ども服売り場ってどこにありますか?」

「あっちだよ~。ひとりで行けるかな~?」

「はい。行けます」

「偉いねぇ~」


 店員さんに見送られ、俺は子ども服売り場のほうへ足を運ぶ。



「うぅ~ん……。種類がありすぎて、どれにするか迷いますわね……」



 子ども服売り場には、真剣に服を選んでいる女性がいた。

 品の良いドレスに身を包んでいて、目元は仮面で隠している。

 これから仮面舞踏会にでも行くのかな?


 気になるけど、じろじろ見るのは失礼だ。

 俺は気にしないことにして、子ども服を見てまわる。


 じぃ~。

 仮面の女性が、じっと俺を見つめている。


「……あの、なにか?」


 視線が気になるので話しかけると、こちらへ歩み寄ってきた。


わたくしは怪しい者ではありませんわ」


 俺は蝶のような仮面を見つめる。


「ま、まあ仮面が気になる気持ちはわかりますわ。ただ、街中で素顔を晒すわけにはいきませんの。ご理解いただけると助かりますわ」


 もしかして、有名人なのかな?

 服屋にいることがばれるとファンが押し寄せ、店に迷惑がかかるかもしれない。

 そんな理由で、顔を隠しているんだろう。


「とはいえ、名乗らないのは失礼でしょう。本名をお教えすることはできませんが……私のことは『アイちゃん』とでも呼んでくださいな」


 アイちゃんはしゃがみこみ、俺の目をじっと見つめてくる。


「ところで、あなたは何歳ですの?」

「3歳です」


 俺は外見年齢を告げた。

 実年齢を言っても、信じてもらえないだろうしな。


「まあっ、ちょうどよかったですわっ! 私、3歳児に贈る服を探してるんですのっ。よかったらいろいろとアドバイスしてくださいな」

「俺でいいんですか?」


 俺は3歳児デビューしたばかりだ。

 ためになるアドバイスができるかどうかはわからない。


「あなたしか頼れるひとがいないのですわっ」


 店員に聞いたほうがいいんじゃないかとも思ったけど、きっとアイちゃんは3歳児のリアルな意見が欲しいんだろう。


「わかりました。俺でよければ力になります」


 アイちゃんは嬉しそうに顔を輝かせた。


「まあっ、頼もしいですわっ! では、ちょっと失礼しますわね」


 アイちゃんは俺の服をまじまじと見つめる。


「ぶかぶか……丈長……スカート……ワンピース!」


 なにか閃いたようにハッとして、子ども服を手に取った。


「い、いまはこういうのが流行ってるんですの?」


 アイちゃんが自信なさげに見せてきたのは、まっしろなワンピースだった。

 3歳児って、女の子だったのか。


「ワンピースはすごく人気ですからね。必ず喜んでもらえますよっ」


 俺は自信を持って答えた。

 女の子の服なら、エファの家でたくさん見たのだ。

 五つ子ちゃんが着ていたものに似ているし、女の子なら大喜びだろう。


「本当ですのっ? 正直、これはどうかと思いましたけど、あなたがそうおっしゃるのでしたら買いますわっ! じゃあじゃあ、これなんてどうですのっ?」


 ふんだんにフリルのあしらわれたドレス仕立てのワンピースを見せてくる。

 まるでお姫様が着るような可愛い衣装だ。


「それならめちゃくちゃ喜ばれますよっ」

「本当ですのっ? だったらこれも買いますわ!」

「予算があるなら、このリボンも一緒に買うといいかもしれませんね」

「まあっ、いまはリボンも流行ってるんですのね」


 いまはっていうか、3歳くらいの女の子はいつの時代もリボンをしてるイメージあるけど。


「じゃあリボンも買うとして……そうですわねぇ。たとえば、あなたはなにか欲しいものとかありますの?」


 俺の欲しいものか……。


「服も欲しいですけど、靴も欲しいですし、あと下着も欲しいですね」

「なるほど。靴と下着は盲点でしたわっ。あぁでも、靴のサイズはよくわかりませんわね……」

「サイズが違うと、靴擦れしてしまうかもしれませんからね」

「でしたら、下着だけにしておきますわ。ええと……こういうのはどうですの?」


 アイちゃんは俺にブリーフを見せてくる。

 明らかに男物だ。

 女の子にそれを穿かせるのはどうかと思う。


「それより、こっちのほうがいいですよ」


 俺はおしりにアニマルプリントが施されたパンツを手に取った。

 もちろん女の子用だ。


「それですの!?」


 驚くアイちゃんに、俺はうなずいた。


「これは自信を持っておすすめします!」

「な、なるほど……。いまはこういうのが流行ってるんですのね。ではこれも買いますわっ」

「はい。ぜったいに喜んでもらえますよっ」


 と、そんな調子で俺は女の子の服を選んでいき、アイちゃんはそのすべてを購入した。


「本当に助かりましたわっ! あなたがいなければ、見当違いな服ばかり買っていたところですわっ。これで喜んでもらえると嬉しいのですが……」

「だいじょうぶです。そのプレゼントには、アイちゃんの気持ちがこもってますからね。ぜったいに喜んでもらえますよっ」


 俺の言葉に、アイちゃんは安心したように笑みを浮かべるのだった。


評価、感想、ブックマーク励みになります。

次話もなるべく早くお届けできるよう頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ