一人多い
魔導書ソウラマリスとの死闘を終えて、探検隊と落下部のメンバー全員が最初の集合地点である岩礁広場へ集まっていた。
「ほいほーい、点呼取るぞー。無事に帰るまでが探検だからな~」
すっかり気の抜けた感じの声になってしまったが、俺は隊長らしく探検隊活動の最後の一仕事を行っていた。
地平線の彼方に日は沈みかけ、今はすっかり黄昏時である。深淵海域の探索を始めて、実に七時間近くが経過していた。シエラ隊員に渡された空気ボンベも、ほとんどの隊員が空になりかけていた。
「あー……。体、だるっ……」
「タラちゃん、お疲れ~」
幽狐族のタラコ隊員とオッツマン隊員が折り重なるようにして休憩している。他の隊員達も思い思いの格好で、というか死屍累々といった様相でぶっ倒れていた。
元気そうなのはクロ隊員とアット隊員くらいなもので、今も海から海藻まみれになった猫耳男の娘のゼレヴィア隊員を引き上げているところだった。
あとは落下部の面々も少し離れた場所で集合していた。彼らは彼らで、様子を見る限り誰かが欠けたということもなさそうである。ちなみに冒険アイドルのコハルちゃんは次のお仕事があるそうで、一足先に翼手の蛇竜に乗って帰っていった。途中で寝落ちしないといいけれど……。
「はて、おかしいな。何度数えても一人多い。俺が見知った顔しか、この場にはいないのに……」
点呼を取っていた俺は首をかしげた。途中参加のザフライ隊員は別としても、最初の人数より一人多いのだ。
「もしかすると深海から、何か未練のあるものを連れ帰ってしまったのかもしれませんね」
疲れ果てた様子のヤタノ隊員が、少し意地の悪い顔で俺のつぶやきに答えた。
「そうか? まあ、それならそれでいいさ。探検は、人数が多くても楽しいからな!」
「ぶれませんね、隊長は」
呆れなのか、感嘆なのかわかりにくい大きな溜息を吐いて、ヤタノ隊員は「くふくふ」と小さく笑っていた。
日が完全に沈み、夜風に冷気が混じってくる。
「それにしても体、冷えたな」
「あー……鍋、食いてぇ」
近海に停泊しているはずの迎えの船をシエラ隊員がボートで呼びに行っている間、人心地ついた俺達は暇を持て余していた。
腹も減ってきたな、と感じていたところで狐さんがいそいそと鍋を用意してくれた。味噌と塩を溶いたスープを、タカミネ隊員が炎の術式で加熱している。
「さすが狐さん、準備がよろしいですわ。けれど、具材はあるのかしら?」
タカミネ隊員が素朴な疑問を口にすると、横からひょっこり現れたクロ隊員が海藻を差し出す。他にも、キノスラ隊員が蟹を数匹、捕まえてきていた。
「昼間に探索した時は生き物の気配なんて全くしなかったのに、よく見つけたな……」
「この海域の結界も完全消失したようですし、外の海から生き物が戻ってきているのかもしれませんね」
冷静なヤタノ隊員の分析が入る。
そう、深淵海域を覆っていた結界。ここへ来た当初はごく一部の範囲で結界に穴があったにすぎないのだが、今ではこの海域は完全に開放されていた。それはおそらく十二体の骸骨、過去の術士が張った結界を俺達が解除してしまったからだろう。
ただ、それによって封じるべき災厄、魔導書ソウラマリスが消滅した以上は結界も役目を終えたといえる。
ソウラマリスの最期については、俺から探検隊ならびに落下部の面々へと伝えた。
海上にいたメンバーは色々と疑問を口にしていたが、俺はとにかく「秘密兵器で倒した」というだけの説明で押し通した。
本当のことを細かく説明できるものでもないし、それ以外に説明のしようがなかったのだが、訳ありだと理解してくれたのか秘密兵器の中身まで突っ込まれることはなくて非常に助かった。
ヤタノ隊員あたりは俺の本当の力にまで気が付いていそうだが、俺が説明をする間、特に何を言うでもなく終始微笑んでいた。
「スイエン隊員が海で魚も取ってきてくれたみたいですよ!」
ヒバ隊員が大きな魚を頭上に掲げながら、鍋の元へと駆け寄ってくる。
「ところでこれなんの具材だ」
「この橙色のはもしかして……」
「ガイア隊員が拾ってきたウニ」
「豪勢になってきたなぁ! おい!」
気が付けば鍋の具材が山盛りになっていた。
「もう煮えたか? 煮えたな? よし、食うぞ!」
「タラコさん、がっつかないでくださいまし。きちんと器に分けますから……」
「ゼレヴィア君もお食べ~。顔色悪いし、お腹空いているでしょ~?」
「え? いいのかな。なんか悪いな……」
「そういえば、ゼレヴィア君いつ来たんです?」
わいわいと皆が鍋を囲んで食事をしていると、海の向こうからボートのエンジン音が聞こえてくる。
「おーい、皆~! もうすぐ、迎えの船が来るけど……あーっ! 鍋、食べてる!? ボク一人に使いを頼んでおいてずるくない!?」
迎えの船を呼びに行っていたシエラ隊員が戻ってきた。
「おお! シエラ隊員、ご苦労様! 鍋うまいぞ!」
「隊長まで! ボクにもちょうだいよ!」
海に囲まれた岩礁の上で、火にかけられた海鮮鍋が探検隊に振舞われる。
今回の探検も楽しかった。
次の探検もきっと楽しい。
俺はまたしばらく実家に戻り、遺跡の守護者としての役務につく。
遺跡の観光シーズンには、盗掘を企むよからぬ輩もごくまれに現れる。
そういった相手から遺跡を守るのも俺の仕事だ。
けれど季節が巡り、シーズンオフになれば遺跡周辺は人が近づけないほどに天候は悪化する。
その時期が来たらまた、俺は自由な探検に出るのだ。
共に探索を楽しむ、探検隊の皆と共に!
【深淵海域 -魔導書ソウラマリスの伝説を追え-】の物語はこれにて完結となります。最後まで読んで頂きありがとうございました。
また機会がありましたら、今後も単発的な冒険小説には挑戦していきたいですね。
(山鳥はむ)





