第99話「天下」
「ナナ、どうしたの?」
「眠れないんだ」
祝宴会はつつがなく終わった。問題があったことと言えば、山都の長が、漠都の軍師に絡んで、泥酔させてしまったことくらいだろうか。軍師は碌な目に遭っていない。
「不安があるのね?」
スーは、横たわるナナに身を寄せると、手を握った。
「うん、これで本当に終わりなのかなって」
六都同盟は無事、締結された。だが、大都側の不自然な振る舞いは見逃せない。しかし、見張りがある。どの程度かは分からない。全ては見通せてはいないと思う。
ただ、収納魔術で仕舞われた死体――今は多分生きているけれども、に対処して見せたことを考えるとかなりの情報は筒抜けになっている。
ナナは自由に動けないもどかしさを感じる。1つ突ける所があるとすればヨドゥヤとハシバの関係性だろうか。両者が牽制してあってくれれば動きやすくなる。
「……大丈夫だよ、ナナ」
スーは当たり障りの無い返事をすると握る手に一瞬、ギュッと力を込めた。握る手でナナを労わる気持ちを伝えている。余計なことを漏らさないように喋るのは出来るだけ控えていた。聞かれているかもしれない。そう予測している。しかし、そう予測した所で手遅れかもしれない。
ナナは分からなかった。大都はナナたちのことを一体、どのように見ているのか。しかし、ただの護衛としては見てくれていないと思う。扉がノックされた。既視感を覚える。
「私が出る」
スーが扉を開ける。ナナも起き上がって、スーの後ろに控える。
「ヨドゥヤ様?」
「夜中にすんまへん。ちょっと話したいことがあるんや」
「本当ですか?」
「何がや?」
「本当にあなたは大都の副議長なのでしょうか?」
スーがヨドゥヤに猜疑心を向ける。当然だろう。
「間違いなくうちはヨドゥヤだ」
その答えも当然だ。相手が何者であろうと結局、答えはそうなることだろう。
「分かりました。それで、何の御用でしょう?」
「そやな、ちょっと部屋に入れてくれへん?」
「……かしこまりました」
何処かに連れ出そうとしている訳では無い。これは安心材料になり得るだろうか。どこへ行こうとここは、大都コーサカの町中である。
「それでは、改めて何の御用でしょう?」
「単刀直入に言うわ。あんたら、うちに臨時で雇われてくれへん」
「何を言っているのでしょう?」
スーが尋ねた。ナナも同じ気分だった。
「うちを、大都を助けて欲しいんや。勿論、報酬は十分に出す」
ヨドゥヤの言葉には必死さが滲み出ていた。
「ハシバの暴走を止めなあかんのや。ほんまに頼む。ハシバの野望、天下統一の野望を打ち砕いてや」




