第95話「会議は踊る3」
「戦争を仕掛けたとして、勝算が果たしてどのくらいあると思う? お主ら雑魚だろう」
口の悪さに反して、冷静な意見である。
「何をおっしゃいますか」
軍師は無礼な言葉に顔を青褪めながら言った。
「お主1人に言ったのではない。弱者が群れたところで戦争には勝てんよ」
「一体、何を根拠に」
「ふむ、見た目?」
山都の長はしれっと適当なことを述べる。根拠はある筈だ。長は大都の防衛機構の脆弱性を突いた。今回の同盟の中心となる大都がそんな体たらくでは、現時点で戦争に勝つ算段なんて望むべくもないだろう。出来るのはせいぜい同盟によって数を集めて、武力行使は厄介だと北に認識させることくらいだ。だが、長はそんなことは述べない。
「先程も述べましたが、新型兵器がございます。農刀、南都の副議長殿は実物をご覧になっていますよね」
「ええ、拝見いたしました」
「農刀は農夫でも使える武器です。すなわち農刀を導入すれば、全ての民が兵士となり得るのです。これにより潜在的な武力は大幅に増加しました」
「うーん、ぶっちゃけ、戦争って怠いじゃろう」
全く空気を読まない爺さんである。しかし、正論ではあった。破天荒ぶりが良い方向に作用している。
「そんな感情論でより良い未来を放棄するつもりですか」
「――私も勝てる見込みは無いと考えております」
古都の司書官が口を開いた。
「失礼ですが、軍師様は北の脅威を正しく把握出来ていないのではないでしょうか」
司書官は淀みなくそう言った。嫌味な感じはしない。ただ淡々と事実を述べた、そのような物言いだった。
「試行は繰り返しております。議論も何度も重ねました。その上での提案でございます」
どうせ結果ありきの試行であり議論だろう。そう思ってしまうのは穿過ぎだろうか。戦争をする為に過程を偽造する、この男はそういうことをしそうである。
「では、北に近い南都と新都のお2人にお聞きしましょうか。我々は勝てると思いますか?」
「残念ながら無理でしょう。いざ、戦いとなれば最後まで抵抗しますが」
執権補佐、サガミが答える。
「何とも申し上げられませんね。十分な検討が出来ておりませんので」
副議長が答える。回りくどい言い方だが、結果として司書官に肩入れする形になる。
「ふむ、トトッリさんの提案は棄却やな」
ヨドゥヤがまとめる。軍師は何か言いたげだったが適切な言葉が思いつかなかったのか、口をパクパクとさせていた。
「他に何かあるかいな?」
「同盟の危険性について考えるべきだと思います」
司書官が述べた。
「どういうことや?」
ハシバが尋ねる。なんて事のない言い方だった。優しさすら感じる。しかし、司書官が一瞬硬直したのをナナは見てとった。
「六都同盟は本当に締結してもいいのかということです」
「……忌憚のない意見やな。詳しく聞かして」




