第94話「会議は踊る2」
「融和とは随分と消極的ですな」
漠都の軍師が発言した。軍師は戦争を望んでいた。より正確には戦争によって得られるであろう権益を望んでいると見た方がいいだろうか。
「合理的な判断やと思うけど」
ハシバが答えた。
「北は徹底的に排除するべきです」
「何でや?」
「我々は既に侵略されているのです。何を躊躇う必要があるでしょう。武力衝突もやむ無しでしょう」
「あかんな。やられたらやり返していいなんて、子供の喧嘩じゃないんやぞ」
ハシバはやや皮肉混じりに、軍師の言葉を否定する。軍師は押し黙った。羞恥心で少し顔を赤らめている。額には脂汗を浮かべていた。確かに軍師は子供のように短絡的に戦争を求めているように見える。
「……漠都は砂漠に囲まれた孤立地帯です。ですから漠都、我が故郷トトッリはこれ以上の発展を望めないのです」
「どういうことや?」
「人口の増加に伴い都市は成長するものでしょう。だが、漠都は周囲は砂故に都市を拡張することが出来ません。故に人が溢れていくのです。少数は皆さんの都へと移り住んでいきました。しかし、都の外、砂漠の外の旅は困難です。皆が皆、その手段を持っている訳ではありません」
ナナは驚いていた。軍師がこのような考えを持っているとは思わなかった。
「成程なあ。それなら移民の受け入れと護衛についても話し合おか」
「いえ、そうではありません。私は第二の故郷を民のために築き上げたいのです」
「立派な志やな。それで、どう結論に繋がるんや」
「私は、第二の故郷を築く為に、北の土地が欲しい」
「それ、北の排除っていうより、北への侵略やないんか?」
「それは――」
ナナは、漠都にて、軍師がこの話をしなかった理由を悟る。反論する言葉を未だ、持ち合わせていないのだ。
「――新武器を開発いたしました。それを用いれば、損害を与えず、速やかに北を制圧することができます」
「それで?」
「それで、と言いますと?」
「それが侵略と呼べるのか、呼べないのか、どっち何や?」
「取り敢えず、先に今の提案を実行すると仮定して話し合った方がいいのではないでしょうか?」
副議長が言った。
「分かったわ」
ハシバは副議長に従う。
「例えば、その第二の故郷、誰が統治するのでしょう?」
「実務的には私になるでしょう」
「そうですか」
聞いておいて副議長の返事は素っ気無い。ナナも興醒めする。本音が透けて見えた。何故、ここで自分を指名するのか。権益を狙っていると捉えらかねない発言だ。
「ちょっと儂の意見も述べていいかの?」
そんなことを考えていると、山都の長が突然言った。
「どうぞ」
ヨドゥヤが、場を鎮めると、長に発言するよう促した。




