第93話「会議は踊る1」
「さて、会議を始めよか」
ヨドゥヤが言った。使者たちは円卓を囲んで座っている。多忙を理由にずっと顔を見せなかったハシバもいた。
ナナたちは副議長の後ろで待機している。バチバも側にいた。――安全面を考慮して。ヨドゥヤには副議長が事前に申告していたが何も言われなかった。
「議長、挨拶頼むわ」
ヨドゥヤが言った。
「ええ、では改めて、私は大都都議会の議長ハシバと申します。この度は私の召集に応じて下さり、ほんま、ありがとうございます」
久しぶりに見たハシバは相変わらず目の下に隈があったが、ハキハキとした物言いは朗らかな印象を与える。
「現時点で全員の同意があれば、滞りなく同盟締結できるんやが――」
ヨドゥヤは視線を巡らせる。新都の執権補佐、サガミは険しい表情を浮かべていた。山都の長、ハッサクは何が楽しいのかニヤニヤと笑みを浮かべている。
「――すんなりとはいかんようやなあ」
「もう1人、この場にいるべき人物がいないのではないですか?」
サガミが切り出した。
「六都からそれぞれ代表が1人ずつ、おらん人はいないと思うけど」
ヨドゥヤは答える。
「大都からはうちと、議長がこの場に参加しとって1人多いくらいや」
「しらばくれるおつもりか」
「……何のことか分かりませんわ」
ヨドゥヤは一瞬、逡巡する素振りを見せたが、臆することなくそう言い切った。
「ですがっ」
「ヨドゥヤは分からん言うとる。それ以上の詮索は止しといてや」
ハシバの物言いはまるで他人事だ。いや、事実、他人事なのかもしれない。ヨドゥヤが何をしようが自分には関係ない、そう言いたげな口調である。あるいは反対の視点こそ重要かもしれない。つまり、大都の頂点である自分が何をしようが副議長には関係ないという言説。
「サガミ様は、今回の同盟における大都の立場を明らかにして欲しいとおっしゃられているのだと思いますよ。つまり、現段階では大都の真意が不透明であると」
副議長が、助太刀するように言った。
「初めに使いを送ってお伝えした通りや。都市同士の繋がりの強化、そして北への対抗、それらのための協同です」
「ええ、北への対抗、分かります。しかし、その先に何があるのでしょうか? 北との融和、それとも武力衝突でしょうか?」
「ああ、そら重要なことやな」
ハシバは言った。
「どう考えているのでしょう?」
「勿論、融和に決まっとるやん。武力を行使するのは生産的やない。団結してみんな仲良うする方がいい」
「融和の為の算段は如何程でしょう?」
副議長は言った。当然、これはお遣いを念頭においた言葉だ。現在、お遣いは行方不明または死亡扱いになっている筈だが。バチバは全くとんでもないことをしでかしてくれた。とは言え責めても仕方ないことだ。
「何もあらへんな。だから皆さんに集まってもらった訳や」
会議は始まったばかりである。しかし、ナナは話し合いが混迷を極めていくだろうという予感を覚えた。




