第91話「報告」
時間と空間に干渉する魔術、実に滅茶苦茶だ。だが、まさに魔術らしい魔術である。それに対策法は既に見つけている。〈シズカ〉、緩やかな時間停止魔術、これが時空間への干渉を阻害していた訳だ。
「ナナは、少年にとって最大の敵だったみたいだね。〈シズカ〉を高い精度で完成させていたナナだからこそ少年の魔術に対抗出来た」
スーが言った。
「そして――」
スーはバチバを指差す。
「バチバが若返ってしまったのは、時間が吹き飛ばされたからじゃないかな」
「ぶっ飛んだ意見だな」
バチバが呟いた。
「結論ありきで発想が飛躍し過ぎているんじゃないか?」
「勿論、一連の事象を説明するための一つの説だよ。でも筋は通っている」
スーは答える。
「まあ、もう死んでいるんだ。邪推したって仕方が無いな」
バチバは会話を打ち切ろうとする。
「……お遣いってどういうこと?」
スーは尋ねる。
「ああ、俺は何も知らされていない。大都の副議長にもあいつの連れとして認識されていたが、流石に教えてはもらえなかった。それにお遣いと言ったって何をするでも無かった。ただ丁重な扱いを受けただけだ。そしてこちらは自由に行動出来る」
「そう。じゃあ、これで話はお終い」
「じゃあ、無事を報告しないとな」
バチバが言った。スーはアラカ、ダン、バンカ、副議長を呼び集めた。
「少年、無事で良かった」
アラカが言った。心底、安堵しているようだ。
「うん、隙を見て逃げ出せたよ」
「やっぱり、あの英雄に強制されていたんだな」
「そうだよ」
バチバは、アラカに自分の犯した復讐を知られたく無いようだった。だから未だ記憶喪失の少年の振りをしている。
「無事で良かったですね」
副議長が言う。労わるような口調だ。
「一安心だな」
ダンはあっけらかんとしていた。ただ、バチバが戻ってきたことを喜んではいるようだった。
「……大変、喜ばしいことです」
バンカは心ここに在らずといった様子だった。実際、バンカにとって大事なのは、英雄の少年の方だろう。その少年は死んでいると伝えたいところだがこの場ではバチバの意向を尊重したい。折り合いを見て伝える必要があるだろうが。勿論、副議長に対しても。
「僕、戻って来れて良かった」
バチバが言った。きっと本心だ。ナナはそう思った。バチバともきっと旅の過程で仲間になっていっていた。バチバは、以前、動物を追い払うのに一度、雷の魔術を使っていた。記憶喪失の振りをしているのならば、そんなことするのはリスクでしか無い筈だ。きっと仲間の危機に反射的に反応してしまったのだろう。
「うん、良かったね」
ナナは言った。




