第88話「再会」
ナナたちが大都コーサカに到着してから2、3日してようやく漠都からの使者がやって来た。五都市の中で最後の到着となったが、漠都であった騒動を考えれば、早い方だろう。早過ぎるかもしれない。
「こうして使者の皆様が全員、集まれたんは、ほんま嬉しく思います」
ヨドゥヤが言った。
「トトッリさんの所は色々、大変やったようやな。ナーラさんから事情は聞いとります。せやから、同盟によって支援も円滑に行なっていけたらと思うてます」
騒動の元凶である少年を受け入れておきながら大変、白々しい発言である。しかもそれを隠しもしない。今の所、漠都には、少年のことは報告していないが、ナナたちが報告していたらどうするつもりなのだろうか。
1つ仮説はある。ヨドゥヤはナナたちが新都に対して不信感を持つように仕向けている。何故かは分からないが、そうすれば一応の説明はつく。
「締結に向けた話し合いは、明日から行うていきます。今は是非、食事をお楽しみ下さい」
夕食時、同盟の関係者全員、揃っての食事会である。いや、大都の議長ハシバだけはいなかった。ハシバは一応、今回の同盟における盟主に近い立ち位置にいる。しかしナナは始めに一目会って以来、一度もハシバの顔を見ていない。
多忙であるからとヨドゥヤは説明する。だからこそ副議長であるヨドゥヤが使者たちと応対をしている。何ら不自然なことでは無い。無い筈だ。
「大都の食文化は面白いねえ」
ダンが話しかけてきた。
「どういうこと?」
「中央広場には行ったか?」
「ええ」
「そうか。俺も行って、食べ歩きをしたんだが、結構、味が濃いんだよ。翻って今食べているのは薄味だろう。振れ幅があると思ってな」
「確かに面白いね」
ナナは頷いた。大都の食文化、それは豊かさの象徴だろう。富があり、力があり、権威がある、それが大都である。食事を終えるとナナたちは部屋に戻る。
「明日からか」
ナナは呟く。明日から同盟締結に向けた話し合いが始まる。
「何も起きないといいね」
スーが答えた。
「うん」
何も起きない訳がない。とは言え、ナナにもスーにも出来ることは無かった。嵐の前の静けさともいえるゆったりとした時間を堪能するとナナは眠りにつく。
「おやすみ、スー」
「うん、おやすみ、ナナ」
扉をノックする音で目を覚ます。
「夜中にすんまへん。ちょっと話したいことがあるんや」
扉を開けるとそこにはヨドゥヤが立っていた。ナナはチラリとスーの方を見る。スーは横になっていた。しかし、本当に寝ている訳ではない。スーは指を小さく動かして、合図を送ってくる。
「……ボクに、ですか?」
ナナは取り敢えず、ヨドゥヤとの会話を続行する。
「あんたじゃなくちゃ、駄目や」
「分かりました」
「ついて来て」
ナナはヨドゥヤの言葉に従う。スーはこっそりと起きて、その後をつけて来る筈だ。この隠密行動にどれ程の意味があるのかは分からないが、大都側に把握されていても、牽制にはなるだろう。それに夜中の怪しげな訪問、少々強気な対応をしてもそれ程、拗れたことにはならないだろうという打算もあった。
ヨドゥヤは建物の外に出ると路地裏にナナを案内する。
「話って何でしょう?」
ヨドゥヤは答えない。ヨドゥヤは突然、懐から小刀を取り出し、襲い掛かってきた。ナナは戸惑いつつもそれを避ける。予想外の行動ではあったが、ヨドゥヤの行動には注意を払っていた為、対応出来た。
「どういうつもりですか?」
意味が分からない。スーも駆け付けてくる。ナナはヨドゥヤの後ろに回り込むと、自身とスーでヨドゥヤを挟み込む位置に立つ。
「何でだ、何で上手くいかない。あの時は素直に殴られていたのに」
ナナはその言葉で悟った。ヨドゥヤは姿形を変容させる。元に戻ったという方が正確かもしれない。そこには少年が立っていた。英雄に固執する少年。
「何で、ボクを狙うんだ」
1度目は偶々だと思った。しかし2度目、今ので確信する。少年は理由があってナナを襲っている。




