第86話「暇なし」
「……大都に真意を問う、ですか」
副議長が呟いた。ナナたちは副議長の部屋に訪れ、ことの経緯を説明していた。
「悩ましいですね。私にはそれが正しい選択であるのかは分かりません。その選択の先に光があるのか見えてこないのです」
副議長の返事はどうも煮え切らない。
「それでは静観でしょうか?」
バンカが尋ねる。
「いえ、追及いたしましょう。互いの意思を明確にしてこそ、同盟は意味のあるものになるのです」
「かしこまりました」
「まあ、しかし今とるべき選択は休息でしょう。心身共に休めることが重要です」
それが予知能力によるものなのか、それとも単に一般的な助言なのかは分からなかった。しかし、副議長の言葉に従いナナたちはそれぞれ、自身の部屋に戻った。
「さて、やることがないね」
ナナは言った。何も解決していないのに暇を持て余している。どうにももどかしい。
「ナナ、焦っちゃ駄目だよ。落ち着いて」
「……うん」
ナナはベッドに腰掛ける。スーはその正面に立ってナナの頭をポンポンと叩いた。今は精一杯、気を抜こう。矛盾しているようだけれどそれが大事だ。
「長かった任務ももう、折り返し地点に差し掛かっているんだよ」
その通りだ。目的地まで到着したのだから、後は用を終えて引き返すだけだ。その用が素直に終わるとも思えないけれども。
「アラカ、ダン、そしてバンカとも浅からぬ縁を築いてこれた」
「うん」
ナナは頷く。
「実は私、この旅を結構楽しんでる」
「ボクも」
ポツリ、ポツリと会話を交わしながら、ゆっくりと時間は過ぎていく。しかし、いつだってそうした時間は永遠には続かない。
けたたましい音が流れた。何かの警告音、大都の防衛装置であろうか。ナナとスーは扉を飛び出すと、音の発生源へ向かう。その音は城壁の方から聞こえてきていた。
ナナたちが駆けつけると人々が集まっていた。
「何が起こっているんですか?」
ナナは側の人に尋ねる。
「何かが壁を登って来ているんやと。それで、防衛装置が作動した。警告音は聞いたやろう」
何かに向けて警告がなされている。
「これは不法な侵入です。今すぐ壁から離れて下さい。繰り返します。これは――」
ナナは違和感を覚える。
「指示に従わない場合は強制的に排除いたします」
「人なんですか?」
言葉が通じる相手でなければ呼びかけなんて意味がない。しかし、人が壁を登っているという状況も想像出来ない。
「分からん。そういう規則やから警告しとるだけや。ほんま何が起こっておるんや」
――本当、何が起こっていりるんだ。




