第84話「英雄あるいは」
「本当にいた」
アラカが呟いた。ナナたちは大都の中央広場にやって来ていた。と言うのも先程、休息を取ろうと横になった途端、バンカに呼び出されたのである。ダンとアラカも側にいた。そして、急かされるままに中央広場に駆けつけた。
バンカが予測した通りに少年たちはそこにいた。だが、間の悪いことに少年は新都カバネクラ御一行と対面している。
「……様子を窺いましょう」
バンカが言う。
ナナたちは、サガミと少年が会話している様子を観察する。サガミは英雄の少年を明らかに警戒しているようだった。
警戒するサガミと何の気兼ねも無く話しかける少年、具体的な会話内容は分からないが、少年がどこか噛み合わない発言を繰り返しているのだろうということは想像出来た。
「早く、助けないと」
アラカが焦燥感を募らせていくのが分かる。
「……奴を逃す訳にはいきません。幸い想定通りこの町に来ていることは確認できました。確実に捕らえる方策を思いつくまで接触は控えた方がよろしいでしょう」
バンカもナナたちと同じ推測をしていたようだ。いや、口調からして単なる推測を超えて、確信に近い予感を覚えていたことが見てとれる。
「じゃあ、何で俺たちみんなを引っ張って来たんだ? 様子を見るだけなら1人でよかっただろう?」
アラカが苛立ったように言う。
「……皆さんの知恵をお借りしたいのです。今、私たちは何が出来るのか?」
バンカは冷静を装って答える。しかし、筋が通っていないのは自覚しているのだろう。言葉を付け加える。
「本当のところは、皆さんを呼んだ意味は自分でも分かりません。ただ、皆さんの力が必要だと感じたのです」
改めて考えてみればバンカは今まで敵なしだったことだろう。それが1人の対象に対して失態を繰り返せば、動揺するに決まっている。
「まあ、今はこうして眺めているしか無いかな。接触する利点もあるとは思えないしな」
ダンが言う。
「分かりました」
バンカが返事をする。何かが変わったとナナは感じた。もしかして、バンカは本当の仲間へと変じている最中なのかもしれない。そんな思考は背後から聞こえた声で中断させられる。
「何しとう?」
ナナは振り返る。当然、他のみんなも振り返る。そこにはヨドゥヤがいた。
「皆さんお揃いで、買い物でも楽しんどるん?」
「ええ、まあそのような感じでございます」
ダンが答える。
「そう固くならんといてや。お、あっちにカバネクラさんがおるなあ」
ヨドゥヤはサガミの名を呼んだ。サガミがこちらに気付く。少年も気が付いた。そして、こちらにやって来る。
「あんたは――」
「僕は英雄です」
「ちゃうやろ」
ヨドゥヤは少年の言葉を否定する。ナナはヨドゥヤの発言の意味を図りかねる。しかし、少年は気にすることなく返事をする。
「ああ、そうですね。英雄あるいはお遣いです。あ、ちなみにこちらは旅人、僕の仲間です」
何を言っているのか分からない。しかし、一層分からなかったのはヨドゥヤの返事である。
「その通りや。ほな、行こか。皆さんを買い物、楽しんでいってや」
ヨドゥヤは少年2人を連れ立って去って行った。
「何がどうなっているんだ?」
ダンが言った。ナナも同意見である。




