第83話「天空の都市にて」
サガミは立ち向かって来る大都の兵士たちを黙々と捌いていく。
「凄いな、これで何人目や」
「200人までは数えとったががそれ以降は数えとらん」
「それは昼前含めてるんか?」
「いや、含めてへん」
「おいおい、とんでもないな。昼前にも100人抜きしてとらんかったか?」
兵士たちの言葉が耳に入ってくる。粗雑ともとれる言葉遣いにいきり立つ部下を片手で制止すると模擬刀を構え直す。次の挑戦者がやってくる。
――この町の兵士たちは恐らく実戦を経験したことは無いだろう。ならず者の制圧や害獣の討伐なんかはやったことがあるかもしれないが、血で血を洗う戦争を経験したことはない筈だ。それは幸いなことだ。
無心で刀を振るう。
力は重要だ。力があれば少なくとも自身の命は守ることが出来る。しかし、力が如何程、平和を守ることに貢献するだろう。幾らかは役に立った筈だ。新都が未だ、独立した都市であるのはその証拠である。
しかし、これからはきっと力以外のものも模索していかなければならない。
本当は強さだけを追求出来たら、それが理想である。刀の道を極めること、それはサガミの憧れであった。だが、執権補佐として成し遂げねばならぬことがある。サガミは刀を振り下ろす。次の挑戦者はもういない。
「――どうも、付き合って下さりまして、ありがとうございました」
楽しい時間を過ごせた。ひたすら武を追求出来るのは至極の愉悦である。出来るのならば、南都の副議長に仕えていた者、あの強者とも試合をしてみたかった。……側にいた、女子たちも只者では無かった。
サガミは3人の部下を連れて中央広場へと向かう。様々な出店が並び賑やかである。少し荒々しさもあるが、血の匂いはしない。
新都では気軽に市場等には行けないので、サガミは大都の広場に来るのを大いに楽しんでいた。広場には、品物が並び、怒声が飛び交い、そして笑顔が溢れていた。
笑顔こそが個人的な理想を差し置いてでも守り抜かなければならないものである。
サガミは足を止める。異質な気配があった。
「サガミ様、出過ぎた発言お許しください。どうか、お下がりになって下さい」
部下はそう言うと、サガミの前に出て辺りを警戒する。
「やめなさい。そう物々しい雰囲気を醸し出すものじゃない。さり気なく周囲を窺いなさい」
サガミは指示を出しながら、自身も視線を動かす。とは言え、あまり探す必要も無かった。向こうから、こちらにやって来ている。
少年、異様な少年。そして隣には普通の少年がいる。いや普通ではないかもしれない。大人びているようにも感じる。しかし、枠から逸脱した存在では無いだろう。
「こんにちは、英雄です」
少年が話しかけてきた。




