第80話「ツワモノ」
「ネットワーク生物、制御可能なのでしょうか?」
副議長が尋ねる。当然の疑問である。南都においてネットワーク生物は排除しなければならない存在である。
「ええ、我が都市の技術を駆使すれば可能です。詳細は企業秘密やけど」
全く、大した技術である。この技術があれば、北に対抗していく事が出来るだろう。大都の援助を受けられるのならば、北の生物兵器は脅威では無くなっていくかもしれない。
しかし、何故、大都は同盟を提案したのだろうか。これ程の高度な技術を持っているのならば、他の都市と連携する必要も無さそうだ。けれども、利がなければ同盟の提案などしないことは確かである。
「南都の皆様方でしょうか」
副議長とヨドゥヤが会話をしていると声をかけられる。
「私は、新都カバネクラの執権補佐、サガミと申します」
その男の眼光は鋭かった。じっと見入るようにこちらに目線を向けてくる。ただ、それは威圧というより実直な性格からくるものだろう。男はまだ、青年といっていいほど若かった。ナナより少し年上くらいだろうか。
「私は、南都ナーラの副議長、フヒトです」
「これはこれは、お早いお戻りやなあ。急かしてしもうたか」
「いえ、そんなことございません。南都の皆様方を早くお目にかかりたいと思っていましたので」
サガミはきっぱりと否定する。取り繕ったのではなく本心なのだろう。明朗快活、案外、このような人物は外交に向いているのかもしれない。
「こちらこそ、お会いできて嬉しいです」
副議長はサガミに手を差し出した。
「あ、そうですね。握手致しましょう」
サガミは副議長の手を固く握った。
「実は行きは南都を経由せずに大都まで来てしまったのです。同盟締結後の帰路では必ず、南都に立ち寄らせていただきます」
サガミは言う。新都は南都より、北にある。今回の同盟締結予定都市の中で最も、北の脅威に晒されている都市といっていいだろう。もしくは北の脅威に晒されながらも存続している都市と言い換えることも出来る。
「あの、1つお願いしてもよろしいでしょうか?」
「何でしょう?」
「そちらの方とお手合わせお願いしたいのです」
サガミはバンカを手で示した。
「どういうことでしょう?」
副議長は少し戸惑っているようだった。
「不躾なお願いで申し訳ありません。しかし、武人として強い者と戦える機会は逃したくないのです」
新都は何故、北に対抗できているのだろうか。答えは単純である。すなわち力こそ正義。新都の人々はただただ強いという。そして尚、強さを求めている。
「彼は御者ですよ。兵士はそちらです」
「職業は関係ありません。ただ私は強い人と戦いたいのです」
バンカは強そうには見えない。それでも実力を看過するとはとんでもない強者である。
「……そのお願いは受け入れかねますね」
「そうですか」
サガミは見るからに落胆していた。分かりやすい。単純な人間である。しかし、紛れもない強者であった。




