第78話「大都」
大都コーサカ、それは隆盛を極めている大きな町である。富があり、力があり、今尚、成長を続けている。
「言葉に尽くせぬ威容だ」
アラカが言った。古都を出発して、数日、大都の城壁が見え始めていた。城壁は、天に届かんばかりに高く、地面に影を差していた。城壁の影に入る。
「日光が遮断されているのは私にとっては都合が良いね」
スーが言った。半ば、冗談である。スーも気分が高揚しているようだ。ナナも巨大な建築物に、心踊る。人間が歴史において積み重ねてきたものが体現されているようだった。
「到着まで、気を抜くなよー」
ダンが言った。しかし、その言い方は既に気が抜けている。当たり前かもしれない。ここは緩衝地帯である。南都周囲に設けられた緩衝地帯、そのオリジナルである。南都は大都の多くを模倣してきた。完全では無いだろう。情報伝達の段階で歪曲している可能性もある。
ただ、過去の大都を模倣出来ていようが出来ていまいが、現在の大都は南都を超越しているのは明らかであった。城門に辿り着く。門がひとりでに開く。
「どうぞ、中にお進み下さい」
どこからより、声が聞こえてくる。しかし、人の気配は感じ取れない。どこか、遠くから発信されているようだ。
ナナは、指輪に触れる。これがあれは離れた場所からでも発信をする事が出来る。冒険者組合が秘匿している叡智の結晶である。
――これは、それと同じなのだろうか。
ナナが考え事をしている間に馬車は門の中へと入っていった。背後で門が閉まる。そして浮遊感のようなものを覚える。
残念ながら、空を飛んでいる訳では無い。馬は未だにそう言った才能は開花させていない。床が持ち上げられていた。部屋を鎖で吊るしているのだろうか。そして巻き上げる。何となく、仕組みは想像出来るが、実際にアイデアを安定した機構として完成させたとは天才の所業である。
上昇が止まると、背後の正面に門が出現する。そしてゆっくりと開いた。
「門を抜けて、お進み下さい」
再び、指示の言葉が聞こえる。馬車はゆっくりと進行していく。ナナは周囲を見渡す。ここが地面より高い場所だとは感じられなかった。
馬車が進んでいくと、虹色に輝く建物が見える。そして、建物の正面では、複数の人間が出迎えていた。馬車は止まる。そして、馬車から降りると、身体が床をすり抜けて地上まで落ちてしまうのでは無いか、ナナはそんな馬鹿げた想像をする。
ナナは未だ、高揚したまま、馬車を降りると、床を踏み締める。もちろん、すり抜けることは無い。ナナは出迎えに目を向ける。
「遠路はるばる、ほんま、おおきに」
※方言は創作です




