第77話「7」
「見張り交代だ」
ダンが言った。
「まだ、早いよ」
ナナは答える。
「いいんだ。何か、眠れなくてな」
「そっか。じゃあ、交代しようか」
ナナはダンと見張りを交代した。ナナたちは今、山脈伝いに進行している。そして、夜になったので馬車を止めて、野宿をしていた。
馬車を壁として、更に火も起こしていたが、それでも、山から吹き下ろしてくる風は肌寒い。よく寝付けないのは無理も無いだろう。
バンカは副議長が安眠できるように注力を尽くしていたが、ナナたちに便宜を図る気は無いようだった。もしかしたら、頼めば、寝床を温めるような、そういう魔術を施してくれるかもしれないが、残念ながら、気軽に頼めるような関係性には無かった。と言うより、バンカは基本的に副議長以外とは距離を置いている。
これまでの旅路で、少しずつ関係性は良くなってきたものの、絶妙な隔たりは何とも解消し難いものだ。昼間、バンカが巨大なユキノコを倒した時には、近づけたように感じたが、それも一進一退である。
ナナは毛布に包まり、ウトウトしながらそんなことを考えていた。
――ナナは夢を見ていた。
ナナは横たわっている。そして、柔らかく小さな手で光を握ろうと手を伸ばす。これが自分が探し求めていたものだと理解する。側には2人の若い男女と老婆がいた。
「……不気味な子ね。泣き声の1つも漏らさない。何かの思し召し?」
「そしな事を言うものじゃ無いよ」
「……でも」
「思し召しって、何か、君が悪い事をしたとでも言うのかい?」
「分からない」
「僕は――を愛している。そして、――も僕を愛している、そうだろう」
「ええ、愛している」
「愛し合う2人の間に罪など存在する筈もない。これは、この子自身に生まれながらに与えられた罰なんだよ」
「そうね、そうに違いない」
ナナには2人が何を言っているのかはよく分からなかった。しかし、ここはいい場所だ。光に溢れている。ナナは笑った。
「……この子、今、笑った」
「ああ、笑った」
「何か怖い」
「恐れることは無いさ。赤子は何も出来ない」
「……ねえ、この子に名前を付けなくては駄目? 捨てに行きましょうよ」
「よしなされ。祟られますよ」
ずっと黙っていた老婆が言った。
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「この子が大人になるまで、辛抱だ。大丈夫、2人なら乗り越えられる」
「名前はどうする? 私の子に与える予定だった名前なんて付けたく無い」
「ナナでいいだろう。7番目の子供だ」
ナナは、キャッキャと笑い声を上げる。自分という存在に名前が付けられたのが分かった。ナナ、なんだかしっくりくる。昔からそうと決まっていたような名前だ。
「この子ったらまた笑っている」
女は恐れ慄いた。
しかし、一連の出来事の意味など、その時のナナには理解出来なかった。その時のナナはただ、光を享受していた。




