第74話「決意」
「さて、ここからは大都まで一直線という話だったな」
ダンが言った。ナナたちは、古都ラクヨウを後にすると、いよいよ大都コーサカへと向けて、進行していた。
「空気が暗いな」
ダンがぼやく。
「色々ありましたからね」
落ち込んでいるのは、アラカである。そして、今、馬車を走らせているバンカも気落ちしていることだろう。
「アラカ、しっかりしろ。元気を出せ。そうだ、古都で与えられた役割でも振り返ってみるか? 俺とアラカは兵士だったよな。あまり、パッとしない役だよな」
ダンは、場を盛り上げようと笑い声を上げる。
「兵士、そうだ兵士だったよな。だが、俺は兵士としての役割を全う出来なかった。人々を守るのが兵士だ。それなのに少年1人守れなかった」
アラカは余計、深く落ち込む。アラカは真面目な性格だからこそ、なかなか気持ちを切り替えられないのだろう。
「前向きに考えろ。兵士の役割を与えられたってことは俺たちは兵士たり得る存在だってことなんじゃないか? アラカはこれから多くの人々を救える兵士になれるんだ」
ダンはアラカを励ます。
「ありがとう、ダン」
「それに、まだ少年を救う機会は残っている」
「本当か!」
「ダンの言うことはもっともだよ」
スーが言う。
「サカイ村、漠都トトッリ、古都ラクヨウ、これまであの英雄は私たちの行く先々に現れて来た。きっと目的地が一緒なんじゃないかな?」
「……言われた。まあ、いい。スーの言う通りだ。大都コーサカ、おそらくそこで少年奪還のチャンスがある。あくまで推測だがな」
アラカの表情が少し明るくなる。
「そうだな。落ち込んではいられない」
「その意気だ」
ダンは言った。
ナナは周囲に気を配りながら考える。副議長は少年を保護出来なかったことに対して、特に咎めなかった。そしてナナたちを慮るような言葉を述べた。
ナナには未だに副議長という人間が掴めていない。古都でもそのまま副議長の役割を与えられていた。都議会を監督する議長を補佐する役割、それは利害の調整に長けた人間がなることだろう。それが、今回の六都同盟締結の使者として副議長が選ばれた理由だと思われる。
だが、それは副議長がもつ才能である。ナナは副議長の価値観を図りかねていた。考えても仕方ないことだ。しかし、特に何も起こらないからそういうことを考えてしまう。
危険のありそうな所には行かない、危険はなるべく回避する、それが今回の旅のあり方なので仕方ないのだが。
馬車は平坦な台地を順調に進んでいく。側方には山脈が連なる。
因果応報とは異なる。ただ、自分が招いてしまったのではないかという気分にはなる。――山脈から、大量の動物が駆け降りて来ていた。何も起こらないと現を抜かしていてこのようなことが起こる。因果は無い。ただ、この世界は危険に満ちているというだけだ。
動物が駆け降りて来るのが危険なのでは無い。動物はただ逃げて来るだけだ。何か、大きな危険、災害から。




