表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナナの世界  作者: 桜田咲
第1章「天路歴程」
71/331

第71話「御伽の国の殺人事件8」

 ナナたちは朝食を終えた。


「さて、何から手をつけたらいいのやら」


 ダンが言った。今の所、一切の手がかりがない。瞬時に姿を消す謎の魔術。古都ラクヨウにいるのかすらも分からない。


「私が案内いたしましょう」


 バンカがやって来た。


「案内ってどうするんだ?」


 ダンが尋ねる。


「……既に居場所は特定しております」


 バンカはこともなげに言った。


「ほう、そりゃすごい」


 ダンは感嘆する。どうやって、特定したかは言わなかった。ナナは次の言葉を待ったが、語る気は無さそうだった。バンカは確固とした足取りで歩き始める。


「ついて来て下さい」


 宿を出ると通りを歩いて行く。町は平和そのものであった。しかし、進行方向から、物騒な会話が聞こえて来る。


「おのれ、手打ちにしてくれようか」


「お願いします許して下さい。今度こそ、今度こそは改心いたしますから」


「盗人ゴローは必死に命乞いをいたします。しかし、騎士は怒り心頭、今にも斬りかからんばかりの勢いでした」


 バンカが立ち止まった。通りの真ん中では劇が演じられている。その観衆の1人に少年がいた。


「少年だ」


「隣にいるのが英雄だよ」


 スーが耳打ちをする。ナナは英雄という奴を見た。ごく普通の少年に見えた。特筆すべきことといえば、袖に刺繍された紋様くらいだろうか。渦巻きと棘を組み合わせたようなパターンである。この辺りではあまり馴染みのないデザインである。


 ナナたちは少年2人を囲むように陣取った。そして、バンカが接近して行く。2人は間もなくバンカに気が付いた。バンカが話しかけると、存外、素直に応対しているようだった。劇の鑑賞をやめると移動を開始する。バンカはナナたちに近づいてくるように手招きする。


「『盗人物語』、あれは傑作だね。意志を貫き通すことの大切さを教えてくれる」


 英雄の方が脈絡無く言った。


「そうですか」


 バンカは素っ気なく返事をする。


「僕はずっと、仲間を求めてきた。そして、ようやく仲間を見つけることが出来た。嬉しくて堪らないよ」


「本当に仲間なのでしょうか?」


「ああ、意志をちゃんと確認出来ていなかったのが問題だったね」


「――あの、今までありがとうございました。僕はもう、彼の仲間です」


「今の聞いたかい? 僕たちはちゃんと正しい仲間なんだ。もう追ってくる必要は無いよ」


「少年、そいつは危険だ」


 アラカが言う。


「もしかして、襲われたから言っていますか?」


「襲われた? 何のことだ?」


「ああ、気づいていませんでしたか。追跡されているって教えてもらったから、僕が追い払ってくれってお願いしたんです」


「上手い具合に脚本とも合致していたしね」


 英雄の方は嬉しそうに言う。


「この下劣な奴め」


 ダンは、英雄の方に向かって吐き捨てるように言う。


「そんなこと言わないでよ。そんな大それたことは企んでいない。ちょっと仲間との仲を深めようとしただけだよ」


「それで、殺したのか?」


「僕は間違ったことはしないよ。あれは、古い時代の詩集だったんだ。そしてすっかり忘れ去られていた。それは本にとっては辛いことだ。だから、忘れられないように()()にしたんだ。仲間との親睦も深まって一石二鳥だ」


「狂っている。少年、こんな奴のそばにいては駄目だ」


 アラカは少年を必死に説得しようとしている。


「アラカさん、僕は戻りません」


 少年は、言い切った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ