第67話「御伽の国の殺人事件4」
「どうも、『探偵旅団』です」
『探偵旅団』は頭を下げた。乱れた身なりに対して言葉は存外、丁寧である。
「……では、単刀直入に申し上げますと、犯人はもう死んでいます」
「脚本と違うな」
「ええ、その通りです。演者が死んでしまい、脚本としては破綻してしまいました」
「何で、そんなことが分かるんですか?」
「脚本は演者を感じ取ることが出来る。魔術をかけられた者が魔術をかけた者を感じ取ることが出来るように」
脚本家は答える。スーは何となく理解する。ナナの魔術は優しい。例えば、〈シズカ〉の魔術には安堵感がある。魔術からナナを感じ取ることが出来る。
スーはそこまで考えて胸が苦しくなる。ナナは無事なのだろうか。しかし、まだ犯人について詳らかにされていない。『探偵旅団』の言葉を信じるのならば、残念ながら死んでしまっているようだが、最後まで話を聞かない訳にはいかない。
「さて、では何故死んだ?」
「殺されたようです」
「何故、殺された?」
「奪われたようです」
「奪われた?」
「ええ、その存在を」
「では、犯人はどこにある?」
『探偵旅団』は指を指した。その先には英雄がいる。
「へえ、分かるんだ」
英雄は懐から本を取り出した。そう立派なものではない。それ所か、酷くボロボロであった。今にもバラバラになりそうだ。
「それが、犯人ですか」
「うん」
「……それも脚本なんですか?」
スーは尋ねる。
「いや、それは詩集だね。詩集の写本だ。あらゆる本には命が宿る可能性がある」
脚本家は言った。
「その通り。僕は魔術書と呼ぶ」
英雄は答える。
「成程、言い得て妙だな。魔術書か。しかし、あまり謎解きにならなかったな。脚本通りに話が進めば問題無かったのに」
脚本家はブツブツ呟く。
「すみません」
英雄は素直に謝罪の言葉を述べた。
「さて、それは兎も角、『英雄』殿を捕らえなければいけないのではないか、『司書官』?」
「そうだな。これは殺人だ」
「うーん、困ったな。人は殺していない筈なのに。――僕は悪くない」
スーは臨戦体制に入る。英雄は何かをやる気だ。具体的には全てを消滅させる光と音の魔術。
「とは言え、誤解する気持ちも分かるんだ。だから、ここは逃げるとしよう」
「逃がしませんよ」
バンカが言った。
「さて、手に入れた魔術書の力を使ってみるとしよう。姿見の力」
バンカの前にはバンカが立っていた。バンカは一瞬、動きを止める。
「さて、仲間と共におさらばしよう」
光と音の後、英雄と旅人の姿は無くなっていた。




