第64話「御伽の国の殺人事件1」
食事会を終えて、ナナたちは宿に戻ってきた。皆、それぞれの部屋に戻っていく。或いは戻っていく振りを。
ナナが窓から、外を見ていると、まず、少年がどこかへ行くのを見かけた。少し、遅れてアラカがその後をつけて行くのが見える。ナナとスーがいる2階の部屋からは挙動不審な動きがよく見えた。
「……スー、やっぱり動きがあったよ」
漠都でも少年はどこかへ行っていた。今回も何らかの行動を起こす可能性があるとナナは推測していた。
「行ってくる」
スーが靴を差し出した。ナナはそれを受け取る。
「気をつけてね」
「うん」
ナナは窓から身を乗り出すと、身軽に飛び降りた。スーは待機だ。わざわざ2人で追跡する必要はない。ナナは背後に気を配る。これで更に自分も追跡されていたら洒落にならない。
ナナはアラカと十分、距離をとると追跡する。その先にいる少年は、何か、匂いを嗅ぎ分けているような足取りで、歩いて行く。時々、迷う様子はあるものの、何か明確な目的地があるようだった。
仄かに明るい食堂や酒場がある通りを折れて、少年は路地裏へと入って行く。これでは、今の距離感だと追跡がし辛くなる。ナナは意を決すると、アラカに近づいた。
「アラカ、何をしているの?」
「うわっ。ナナこそこんなところで何をしているんだ」
アラカは少年が入って行った路地裏をチラチラ見ている。
「冗談だよ。早く追おう」
アラカは瞬時に状況を把握したようで、頷くと路地裏へとそろそろと近づいて行く。ナナは自身とアラカに対して〈シズカ〉の魔術を行使する。後を追って行くと、少年は一軒の建物へと入っていった。
「出て来るのを待つしかないな」
「そうだね」
ナナは、建物へと近づいて行く。
「おい、どういうつもりだ?」
「他の出入り口がないか確認しないと」
ナナは素早く、建物の周囲を確認する。扉は正面の一箇所だけだった。追跡に勘付かれない限り、素直に扉から出てくるだろう。ナナとアラカは扉が見える位置に隠れて待つ。
「アラカは何で少年の後を追っていたの?」
「ああ、何だか様子がおかしかったからなぁ。心配だったんだ」
「優しいんだね」
「……人々を守ることが俺の使命だからだ。ナナの方こそ、何で後をつけて来た?」
「偶然、アラカがどこかへ行こうとしているのを見かけたから気になって」
「そうか」
囁き声で会話しながら、ナナとアラカは建物に気を配る。その時、どこからか口笛が聞こえて来た。ナナは周囲に気を配る。音の発生源は見つからない。それなのに、いつの間にか、正面に人影が現れていた。
「……バンカ?」
人影は棍棒のようなものを振り上げた。そしてナナ目がけて振り下ろされる。ナナは一瞬、回避が遅れる。ナナは頭を強かに殴打された。そしてそのまま横転する。
「ナナ!」
動揺するアラカに人影が追撃するのが見えた。そしてナナは気を失った。




