第61話「図書館」
ナナ達は図書館へと向かう。図書館こそが古都ラクヨウの中枢である。
図書館には装丁を施された本が所狭しと並べられている。ナナは本に押しつぶされそうな感覚を覚えた。図書館奥の応接室に案内されて、ナナは一息ついた。本に纏わりつく念のようなものを感じ、息が詰まりそうだった。思いがけず、同行を許可された少年もそわそわしている。
ナナは応接室を見渡す。調度品は長い年月をそこで過ごしたように場によく馴染んでいた。実に落ち着きのある空間である。
副議長が案内人に促されて、ソファに腰掛ける。ソファもシンプルなデザインながら、重厚で趣があった。
間も無く、1人の女性が応接室に入ってくる。送れて1人の男性とその付き人と思われる少年も入ってくる。いや、少女だろうか。幼いためか、元来の顔つきか、性別は判断がつかなかった。まあ、重要なことではない。
「おや、お付きの方々は立ったままですか? 椅子を用意させましょう」
女性は開口1番にそう言うと、椅子を人数分運んでこさせた。その手際の良さから、椅子は予め、準備されていたことが分かる。ナナたちは促されるままに椅子に座った。厚意は無碍に出来ない。しかし、これで咄嗟の時に対応し辛くなった。立った状態と座った状態では初動に差が出る。
これは牽制なのか、それとも単なる親切なのか。底が見えない。副議長と同じく目の前の女性も計れない存在であるとナナは感じる。女性はナナたちが座ったことを確認すると、自身もソファに座る。美しい所作であった。一方、男性は無造作にソファに腰掛ける。少年はオドオドとソファに座った。
「お初、お目にかかります。南都ナーラの副議長様。私が古都ラクヨウの司書官です。お会いできて実に、光栄です」
「こちらこそ、名高いラクヨウの司書官様にお会い出来て、感激の至りです」
副議長と司書官は握手を交わした。
「同席する者も紹介致しましょう。脚本家と脚本家見習いです」
「よろしくお願いします」
副議長は脚本家と脚本家見習い相手にも丁寧に握手を交わした。
「……失念しておりました。名を名乗るべきでしたね。古都ではあまり、そのような風習がないものでして」
「お気になさらず。私も普段は副議長と呼ばれるものですから失念しておりました」
「では改めまして、司書官のヒエダノと申します。そして、脚本家のカクと脚本家見習いのサクです」
「副議長のフヒトと申します」
2人は再び、握手を交わした。
「それでは早速、本題に参りましょうか」
司書官が言った。
「ええ、そうしましょう」
「では――」




