第60話「占い」
魔術を使えない人間はいない。皆、何かしらの魔術は使用することが出来る。しかし、皆が魔術を活用出来ているかと問われれば少し答えは異なる。例えば、冒険者が魔術を攻撃の手段にまで昇華させるには、それなりの才能と鍛錬が必要である。
光と音の魔術、少年はそれを一体、どこで習得したのだろうか。ナナは考える。
猿の大群を抜け、馬車の荷台は静まり返っていた。誰も少年の魔術について触れようとしない。気まずい時間が流れる。
「おい、さっきの魔術は何だ?」
沈黙を破るようにアラカが言った。
「危ないって、思って咄嗟に動いたんだ」
「俺がいたから、平気だったんだがな」
ダンが言う。
「今までにも似たような場面はあった筈だ。何故、今回に限って動いた? 何があった?」
「反射的に、動いちゃったんです」
少年の答えはいまいち要領を得ない。
「もしかして、何か、思い出したのか?」
「――いいえ、何も思い出していません」
少年は会話を拒むように目を伏せる。
「それだけの腕があれば、一流の冒険者としてやっていける」
アラカは問いただすのを諦めると一言、そう言った。
「まあ、今は、護衛の分担は4人で出来ている。少年が動く必要は無いからな」
ダンが付け加えるように言う。少年は頷いた。それから、少年が再び魔術を使うことは無かった。問題があれば4人が対処をする。
馬車は順調に進んで行った。そして砂漠を脱してから数日、都が見え始める。古都ラクヨウ、古代から続くと言われる古い都である。
都は盆地に位置しており、周辺は水脈と木々に囲まれている。都周辺を根絶やしにして造る緩衝地帯は設けられていないが、この辺りの生態系は古代に近く、それなりに安全らしい。凶暴な動物が町に侵入してくることはないと言うことだろう。
そうで無くても、緩衝地帯が設けられる前の南都でも警備は何とかなっていたらしいので、そこまで心配する必要はないかもしれない。
馬車は城門にたどり着く。バンカが門兵と話をしている。そして間もなく、要人の馬車として都内に招き入れられる。そして、城門近くの小屋へと案内された。ナナたちは馬車を降りると小屋へ向かった。
「ようこそ、古都ラクヨウへ。早速ですが皆様に役をお与えしましょう」
黒い装束を身に纏った老婆が言った。
「役、ですか?」
ダンが尋ねる。
「ええ。この町では皆様には役割が与えられます」
「そして私は、占い師でございます。皆様に適切な役割をお与えしましょう」
ダン、そしてアラカはいまいちピンときていないようだったが、占い師は言葉を続ける。この町の奇妙な風習はおいおい理解できればいいだろう。とは言えナナも冒険者組合に集まってくる情報を耳にしただけなので詳しいことは知らない。
「副議長様は、そのままでよろしいでしょう。それが貴方様の役割でございます」
副議長の前に立つと占い師は言った。
「吟遊詩人、それがよろしいでしょう」
バンカの前に立つと言う。
「あなた方は兵士ですね」
占い師は、ダンとアラカに言う。
「あなたは、旅人」
少年は、そう言われて身じろぎをする。
「素晴らしい。再生の象徴、悪魔でございます」
占い師はナナの方を向くと目を輝かせて言う。悪魔、いかにも意味ありげだ。
「あなたは姫でございます」
最後に占い師はスーにそう言った。
「役割は運命でございます。あなた方が役割を演じるように、役割もあなた方を演じます。どうか振り回されることのなきように」
占い師は恭しく去っていった。ナナは嘆息する。――近からず、遠からず。
「さて、行きましょう」
副議長が言った。




