第6話「愛の園4」
「お前、誰からこの場所を聞いた?」
背後で扉が閉じると、大柄な男がドスの効いた声で尋ねてきた。ナナはそれを無視して、男の背後に回る。男はその速度に反応出来ない。
ナナは男の首にナイフを突き付ける。
「媚薬を下さい。そうすれば手荒な真似はしませんから」
「お前、どこの者だ?」
「お答え出来ません。媚薬を出して下さい」
男の首先にナイフの切っ先がめり込む。これ以上力を込めれば血が流れることになるだろう。
「分かった。出すからこいつをどけてくれ」
ナナがナイフを離すと男は部屋の奥へと引っ込んでいった。
「ほらよ」
男は袋を持って出て来た。ナナは男をじっと見る。
「なんだ、疑っているのか? 誓って本物だよ。面倒ごとには巻き込まれたくないから素直に差し出すさ。いいものを仕入れられたと思ったが、命には代えられない」
「いえ、お金は支払いますよ」
ナナは男の掌にお金を握らせる。
「お前、これ、金貨じゃないか。――そうか、口止めって訳か」
「どうも、ありがとうございました」
ナナは扉を開けると、部屋を出る。表を担当している店員は少々、驚いたような顔をしたが、大きく騒ぎ立てることはしなかった。
ナナは店を後にすると、袋を開ける。
「キノコ……」
形状からしておそらくそうだろう。しかし、珍妙なキノコであった。薄ぼんやりと七色の光を放っている。ナナはキノコを一瞥すると袋を閉じた。
どう考えても、そこらに生えてくるような代物ではない。エハドが外から持ち込んだものだろう。そして、どのタイミングでかは分からないが、キノコに媚薬効果があることに気がついた。
ナナは歩きながら掌に陣を描いていく。所謂、収納魔術その1つだ。
媚薬の正体は分かった。キノコ、即ち、外の世界由来の自然物だ。ならば、取り敢えず媚薬は隔離しておいた方がいい。
陣を描いた掌に袋を載せると袋が消え失せる。これによって、キノコは収納され、隔離された。
ナナは陣が消えないように手袋をする。何せ、陣が消えると仕舞ったものが取り出せなくなる。その上、この収納魔術は収納できる容量も今のキノコだけでいっぱいとなり、殆ど実用性がない。初心者の練習用といってもいい単純な魔術であった。
ナナは複雑な魔術があまり得意ではなかった。だからこそ、単純な魔術を極めているのだ。
「さて、助けに行くよ、スー」
ナナは愛の園の拠点には戻ってきた。媚薬の正体がただのキノコだというのならばもう何も問題はない。
後はスーを救出し、エハドを処分した後にゆっくりと情報を集めれば良い。
ナナは扉を開いた。
「こんばんは、スーを取り返しにきました」
程なくして、エハドが現れる。
「おやおや、戻ってきてくれたんだ。僕のハーレムに入る気になってくれたかい」
「いえ、媚薬の正体が掴めたので戻ってきました」
「媚薬、何のことだい?」
「スーの様子がおかしかったのはキノコのせいですね?」
「おやおや、昨日の今日で中々、すごいね君」
「君にすごく興味が出てきたな。君のことが知りたいよ」
エハドの声に応じて女たちが集まってくる。
「やはり、ただの媚薬でもなさそうですね。むしろ、媚薬効果は副次的なものかもしれない」
「本当にすごいね、君」
今のナナは極めて冷静だった。エハドから聞き出す必要のある情報はもう全て引き出した。キノコがまさにエハドが持ち込んだ媚薬であったこと、そしてキノコに別の効果があること。
ナナはエハドに接近する。もう、遁走する必要はない。エハドは危険を感じのか、慌てて地面を蹴り、後ずさるが、それよりも速くナナは更に距離を詰める。
ナナは思った。エハドはもう長らく、戦闘をしていなかったのだろう。戦いの勘が鈍っている。ナナはエハドの首をへし折った。
「処分完了」
ナナは指輪に向かって呟いた。
評価募集中です




