第59話「覚醒」
馬車は砂漠を進んで行く。何処から現れたのか、2匹の狼も併走していた。見守ってくれているのだろうか。そのおかげなのか、道中は何事もなく進んでいる。このまま行けば、何事もなく砂漠地帯を抜けられそうである。
河の側を差し掛かると、ナナは人影が見えやしないかと気を配ったが何も見えない。盗賊団が現れる様子は無かった。彼らはどうしているのだろうか。
代わり映えのしないモモ砂漠を数日間、進んで行くと、段々と辺りの様子が変化していく。モモ砂漠特有の桃色の砂に段々と黒や茶が混ざっていく。そして、いつの間にか土の地面に変化していた。モモ砂漠を脱した。
狼はそれを悟ったようにどこかへと去っていった。この数日間は実に平和だった。少なくとも外側には脅威は無かった。
恐ろしいことは内側にある。バンカが魔術的手法を用いて農刀を完成させた。それ以上の説明は出来ない。ナナには何が起こっているのかは分からなかった。
砂を宙に浮かせて捏ねくり回したかと思うと、火球で包み込み、気づいた時には農刀が完成していた。バンカは本当に何でも出来る。
そして、それを何の説明も無く飲み込んだ。副議長以外は驚愕の表情を浮かべた。恐らく、収納魔術の一種なのだろうが絵面は衝撃的である。
これによって魔力を制御する術をバンカは手に入れた。副議長の言葉を信じるのならば、バンカは魔力をエネルギーとして魔術を行使している。その魔力が途切れてしまうというリスクをバンカは克服したのだ。
体内に収納された農刀を停止、移動させることで魔力を制御出来るようになったということだろうか。衝撃波を発生させる武器をどうやって制御装置として転用しているのか、具体的なことは分からないが、根本の仕組みを考えれば出来そうな気がする、魔術師バンカならば。
一同は旅を続けていく。
「あれは、猿の大群か?」
ダンが呟いた。ナナも見やる。虎視眈々とこちらを狙っている。本能剥き出しだった。人間的な賢さは無いだろうが、数が多く、すなわち脅威である。
「迂回しつつ、通り抜けます。追い払って下さい」
バンカが言った。馬車は群れを迂回するように進んで行く。
「おいおい、この数相手に突っ切ろうっていうのか。アラカ、スー、頑張ってくれ」
アラカの弓矢とスーの〈火矢〉が猿の大群を牽制する。
「すまない、取りこぼした!」
アラカが声を張り上げた。1匹の猿が接近してくる。ダンが対応しようとした時、光が猿めがけて走っていった。そして一瞬、遅れて破裂するような音が発生する。
ナナは見ていた。少年の伸ばしが手元から光が発生して猿へ向かって伸びていっていた。そして猿はパタリと倒れる。
「何だか、出来るような気がしたんだ」
少年は、はにかんで笑った。




