第57話「砂漠の都に別れを告げて」
夕方になってナナは目を覚ます。そして隣で眠るスーを起こす。
「ああ、よく寝た」
「スー、疲れは取れた?」
「うん、ばっちり」
ナナたちは食事に向かう。既にダンとアラカ、少年がいた。
「休めたか?」
アラカが尋ねてくる。
「ああ、うん」
「では、食事を取るとしよう。ああ、ちなみに副議長様は部屋で召し上がるそうだ」
ダンが言った。
「そうだね」
ナナたちは黙々と食べ始める。温かいパン、スープ、そして新鮮な野菜。漠都は案外、農業が盛んである。そもそも食料を自給出来なければ都として成立していないだろう。
それでも砂漠地帯において農業が行えているということは驚異的であり、その技術を支えていくことがこの都にとって重要な政策になっていくだろう。しかし、軍師はその真逆をいく政策を推し進めた。最終的な目標があった為だろう。しかし、その過程で犠牲にするものが積み重なれば、計画は早かれ遅かれ頓挫していた筈だ。
ナナは漠都に来る道中で、対面した盗賊団を思い出す。彼らは被害者であった。この後、漠都はどうなっていくのだろうか。ナナは考えた。
「ねえ、あなたは一体どこに行っていたの?」
スーが少年に尋ねた。少年は困った表情を浮かべる。
「それが何も覚えていないんだとよ」
ダンが答える。
「どこで見つけたの?」
「ああ、アラカが見つけたんだよ」
「そうだ、俺が宿屋の裏で少年が寝ているのを見つけた」
アラカが言った。
「本当に何も覚えていないの?」
スーは小年の顔をじっと見る。
「うん、宿屋の周辺を探索していたのは覚えているんだけど、その後の記憶がないんだ」
「……そう」
結局、会話からは少年の身に何が起こったのかは全く分からなかった。
ナナたちは食事を終える。
「よし、身支度を整えたら出発だな」
「そういえばやはり少年の預け先は見つからなかったんですか?」
ナナはダンに耳打ちする。
「そもそも探す時間が無かったんだ。副議長様は出発を急いでいるしな。まあ、物騒な事件が起こった所に放置しておけないだろう」
想定通りではあった。少年はもう少し、旅に同行することになりそうだ。
部屋に戻るとスーが呟いた。
「少年は嘘をついている」
「うん」
少年は昨晩、何かをやっていた。そして、その記憶はしっかりと残っている筈だ。瞳孔や仕草から少年が何かを隠していることは読み取れた。
「……思い出したのかもね、記憶」
スーの言葉にナナは頷く。
身支度を整えて、宿屋の外に出るとバンカが馬車の準備をしていた。その動きはキビキビとしており、気絶するほど疲労を溜めていた人物には思えない。
「どうぞ、乗って下さい」
副議長は既に馬車に乗っている。ダンと少年もナナたちと殆ど同じタイミングでやってくる。そしてやや遅れてアラカがやってくる。
「忘れ物は何もないようだ」
アラカは一言、そう述べると馬車に乗り込んだ。馬車はゆっくりと町中を進んでいく。再び、旅が始まる。




