第52話「三つ巴」
魔術師バンカはゆっくりと立ち上がった。その間、誰も言葉を発しなかった。行動原理が読めない少年も気圧されているようだった。感情は正常に働いているようだ。
少女の兄の方は可哀想なくらいに狼狽えている。
「なんで、ここに?」
「私には魔力を感知する機能がございます」
バンカはあまり答えになっていないようなことを述べる。
「これは一体、どうなっているのだ? いや、兎も角、そちらにいるのは副議長殿の付き人ですな」
軍師が言った。
「その通りでございます。そして、そちらの少年が今朝方からの爆発の犯人でございます。軍師殿の耳にも事件については届いておいででしょう」
バンカは一気呵成に述べる。余計な疑問を抱かせないようにしているようだ。
「そ、そうですか。捕らえろ」
スーは軍師が残念そうな顔を浮かべたのを見逃さない。まさか核を使いたかった? この混乱に乗じて、使用実験を行おうとしていた。あり得る話である。そうすれば罪を押し付けることが出来る。
軍師の言葉に従い若者たちが少年の周りを囲む。
「……僕は困難にぶつかっても乗り越えて来た。偽物の仲間、エルフの罠。正しい仲間がいると信じていたから」
少年は今の所、何もしていない。しかし、誰1人少年に近づくことが出来なかった。
「仲間がいるから、こんなところで躓く訳にはいかないんだ。僕は限界を超える」
周囲を光が包む。限界を超える、その言葉は嘘では無かった。スーが一瞬、目を瞑った後、静寂が訪れる。そして、気づいたときには何もかもが無くなっていた。
何もかも。頭上には空が広がっていた。地下を覆いかぶさっていた王城が消滅している。――違う。何かが浮かんでいる。沢山の人。人々が王城の領域外、地上に纏めて下ろされたのが見えた。
「よくも、よくも邪魔をしたな」
少年の視線の方向にはバンカがいた。スーもつられてバンカを見る。バンカは表情を変えず、平然としている。
「私の、私の王城が」
軍師は愕然としている。
「奴は必ず、ここで排除しなければならない。核を使う」
スミスが言った。
「収納魔術を解除するんだ」
「かしこまりました」
核が出現する。人の背丈程の核は桃色で光沢を帯びていた。地面が揺れる。核の使い方は簡単だ。適当な魔術で動かせば、衝撃が生じる。
しかし、ある程度の方向性は調節出来るだろうが現段階で制御出来る代物ではないだろう。ただ、爆発的な力の奔流、それを引き起こすのが核だ。
「なんてことだ。もう一度だ。もう一度限界を超える」
物事は最悪の方向へと動き始めていた。核、少年、魔術師バンカ、上手く均衡がとれればいいが、未曾有の災害を引き起こす可能性もある。
「何か、聞こえる」
ずっと狼狽えていた少年、少女の兄が言った。
「ミーの歌だ」
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