第51話「3人」
「本当にここにミーがいるのか?」
「さあ? 屋敷にはいなかったんだ。手当たり次第探してみるしかない」
「爆発に巻き込まれたんじゃないだろうな」
「そんなことしないさ。邪魔なものを飛ばしただけなんだから。さあ、捜索を続けよう」
なんでこんなことになってしまったのか分からない。少年は呆然と自称、仲間に付き従うしかなかった。屋敷が完全に消滅して妹が生きているとは思えない。ただ一縷の望みを捨てれずに少年は妹の名前を叫ぶ。
「おや、人がいる。話を聞いてみよう」
小柄な人物だった。顔は隠されていたが、チラリと見える肌は色白でなんとなく女性らしく感じる。何やら独り言を呟いていたようだった。
「やあ、仲間の妹を探しているんだけど、知らないかい?」
「あなたの探している妹は多分、私の仲間が保護している少女ね」
小柄な人物、スーは少女の兄と思しき方を向くと答える。
「本当なのか」
「ええ、歌が上手い子でしょう。私たちが屋敷から救出したの」
「そうだ、僕の妹ミーだ。なんて幸運なんだろう」
幸運か、どうだろう。巡り合わせは偶然だ。孤独な少女の歌声が偶々、ナナの心に響いた。その結果の今を幸運と呼んでいいのかスーは分からなかった。勿論、その疑問を敢えて口にすることは無い。
「あなたを妹に引き合わせてあげたかったのだけれどもそうもいかないみたい」
スーは人が近づいて来ていることに気づく。
「1つだけ、確認したいの。あなたはただ、巻き込まれた、そうでしょう?」
「何を言う。彼は僕の仲間だよ」
「……そうだ、仲間だ」
スーは逡巡する。どう考えても仲間の訳がない。そうこうしている内に廊下の角から人が現れる。1人だ。何やら文書を持っている。スーは取り敢えず、2人の少年を近くの部屋に引き込む。
しかし、何でこんな所に1人で来ているのだろうか。スーは扉の隙間から文書をじっと眺める。チラリと封蝋がしてあるのが見てとれた。まあ、考えても仕方のないことだ。
「私の仲間も向かっている。城を脱出して、あなたの妹と合流――」
スーは言いかけて口を閉ざす。王城が揺れた。地下から振動が伝わって来た。
「まさか!」
スーは思わず口を滑らした。
「どうしたのですか?」
少年、ヤバい方が尋ねる。スーはドッと汗が噴き出す。強いということは分かる。しかし、それだけじゃない。言葉の節々からも感じ取れるが、どこか根本的に人と噛み合わない部分がある化け物、スーの評価はそうだった。この少年を刺激してはいけない。スーはそう判断する。隠し事も出来ない。
「今の揺れは地下にある兵器の影響ではないかと思ったの」
スーはボカして答える。
「地下の兵器か。見逃せないな。そう思わない?」
「僕は、妹に会いたい」
「そっかー。そうだよね」
一見、納得したようだった。しかし、そうではない。
「では急がなきゃ」
周囲が光で包まれる。そして、床が消滅した。消滅させる対象は選べる、スーは1つ理解した。しかし、それ以外の点では行動原理の分からない少年に若干の恐怖を覚える。
スーたちはゆっくりと地面に着地した。魔術だ。重力を操っているのだろうか。とんでもない芸当だ。バンカにも劣らない魔術師である。
最悪なタイミングだった。そこにはスミスがいた。そして軍師もいる。いや、それとも少年の意図通りなのだろうか。
スーにはその場を乗り抜ける方策は思い付かなかった。そして更なる理解不能な事態が起きる。上から何かが落ちて来た。――何かではない。人だ。人、魔術師バンカが落ちて来た。




