第5話「愛の園3」
ナナは指輪に付けられた石を捻る。こうすることで、送信先を変更することができる。
「組合長、聞こえますか?」
「ああ、聞こえているよ」
「手短に言いますと、エハドが碌でもないものに手を出しているのは確かなようです。スーが捕えられました。何らかの薬物を盛られているようです」
「そうか。――ならば、適切な処置が必要だろう。情報収集は継続しつつ、エハドを処分しなさい」
「分かりました」
ナナは組合長への連絡を終えると沈黙する。結局、愛の園の内情は殆ど不明のままだ。どこから手をつけたらいいのか、検討もつかない。
寝よう。ナナは決心する。焦りは禁物である。鈍った思考力は最悪の結果を齎すものだ。ナナは予め用意していた宿の部屋に戻ると眠った。
早朝、目が覚める。ナナは窓から外を眺める。快晴だった。
ナナは考える。……媚薬、流通しているのなら実際に使っている者がいるはずだ。使用者を探せば、サンプルを回収出来るかもしれない。そして、媚薬の正体を掴める。
ナナは思考を進める。愛の園の拠点もあるこの辺りの地域は多くの酒場や遊び場が存在する。冒険者組合がある辺りが商人で賑わう昼の街なら、こちらは夜の街だ。灯りが燃え尽きるまで、人々は酒を飲み、遊びに興じる。媚薬を流すのには絶好の場所である。
時間をかければ、誰でも媚薬を手に入れることが出来るだろう。その媚薬が何処から来たのか分かる者はそういないにしても。
しかし、時間をかける訳にはいかない。どの店で媚薬が使われているかを見極めなければいけない。
……表情だ。酔いとは異なる恍惚。焦点の定まらない目。あれは手掛かりとなり得る。
ナナは夕方になると探索を開始する。段々と客足が増えていく中、ナナは早速、不審な人物を見つける。足取りが怪しい。一見、酔っているだけにも見えるが、妙に恍惚としていて、焦点が定まっていなかった。
向かって行く方向からして、帰るのではなくどこかの店に向かって行くようだが、既に媚薬を服用した後のようだった。中毒になっているのか。
ナナは不安を押し殺し、後をつける。怪しい人物は一軒の酒場に入っていく。ナナはその後を追って、酒場に入る。普通の酒場だった。昨日、情報収集した所とそう様相は変わらない。
しかし、それでもナナはここが異常だと理解できた。確かに店に入っていった筈の人物がいない。ナナは辺りを見渡す。扉があった。
ナナは納得する。あそこが裏への入り口だ。ナナが扉の前まで行くと、店員が瞬時に反応する。
「お客さん、そちらは立ち入り禁止です」
「へえ、そうなの? こっちにいいものがあるって聞いたんだけど?」
「……分かりました。どうぞ、お入り下さい」
店員は扉を僅かに開けると入るように促した。ナナは堂々と入り込んだ。




