第49話「砂漠の歌姫7」
「……屋敷の方に人が集まっているみたい」
少女は聞き耳をたてながら呟く。都は爆音で騒ついていた。
どうするべきなのか。屋敷を確認するべきなのか。ナナが思案していると再び、光が発生する。そして爆音。少女が顔を顰める。
「大丈夫?」
「音の取捨選択には慣れてる」
光と爆音の発生源は先程とは違う場所だ。もしかして屋敷は関係ないのだろうか。無差別、それだったら尚、たちが悪い。副議長に頼んで、少女を正式に保護してもらった方がいいかもしれない。何せ、副議長の側には最強の魔術師、バンカがいる。
「ついて来て」
副議長は記憶喪失の少年を救助させた人物である。人道を説けば、任務に関係のない行為を許してもらえるかもしれない。非合理的な選択ではあるが、ナナはそれに賭けることにした。それ程にまで少女を守りたいという思いがナナにはあった。
ナナたちは宿屋に向かった。宿屋に戻ると厳しい顔をしたダンが腕組みをしていた。アラカもいる。
「どこに行っていたんだ、ナナ? それにその子は?」
「副議長様は無事?」
「ああ、部屋で休まれている。だが、少年が行方不明なんだ。バンカから報告を受けた。昨晩帰って来なかったらしい。それに先ほどの爆発。探索に行こうと話し合っていた所だ。副議長様からも許可をもらっている」
「行方不明? 取り敢えず副議長様とお話をしてくる」
「分かった」
ナナは少女と連れ立って副議長の部屋に向かった。扉の前にはバンカが立っていた。
「報告に参りました」
「その少女は?」
「副議長様に直接、お話しいたします」
「……お入り下さい」
ナナたちが部屋に入ると、バンカはその背後を取った。
「そちらの少女は、どなたでしょう? いや、見覚えがあります。昨日、美しい歌声を披露してくれました歌姫ですね」
「ええ、その通りです。彼女は件の武器製作者の屋敷に閉じ込められていました。その上、兄と離れ離れにさせられた。あまりにも不憫です。ですから、助け出しました」
ナナは副議長の顔をじっと見る。副議長はニコニコとした表情を浮かべていた。それが本心かは分からない。
「……それがあなたのやろうとしていたことですか?」
ナナは身震いをする。ナナは今、任務とは違うことをやっただろうと言外に問い詰められている。
「申し訳ありません。しかし、人道的な行為であったと確信しております」
「いえいえ、責めている訳ではありません。ところで、もう1人はどちらに?」
「もうすぐ戻ってくる筈です」
「それは良かった。それでは、この少女はどうするのですか?」
「事態が収束するまで、どうか保護して下さい。お願いいたします」
「それは承諾出来ませんね」
バンカが不意に動いた。ナナは素早く少女とバンカの間に入る。しかし、バンカが手を出す様子はない。
「ほら、実に機敏な動きです。あなたが守った方がよろしいでしょう」
ナナの心臓は高鳴っていた。しかし、副議長はこともなげにそう言った。
「それはそうと、あなたも少年を探索しますか?」
「えっ」
「今晩にはここを発つ予定です。時間はあまりありませんよ」
副議長は多くを語らない。推測するのならば、自由に探索することを許可するから、何かを為す気があるのならば、自分で何とかしろということだろうか。
「……分かりました。探索して来ます」
ナナは部屋を出た。
「お兄さんを探そう」
ナナは言った。
「うん」
少女は答える。その時、また爆音がした。
「お兄ちゃん無事かな?」
ナナは答えられなかった。
「探しに行こう」
ナナと少女は宿屋を出る。
「お兄ちゃんと私はよく市場に行く。――お屋敷の近く」
「そっか。行こう」
市場は騒然としていた。多くの人々が集まっている。これでは、少女の兄を探し出すのも至難の業である。そもそもここにいるにかも分からない。
また爆音がした。遠くからだ。ナナたちが屋敷に接近したのとは逆に屋敷の付近から遠ざかってくれたようだ。一瞬、ナナは安堵しかけた。しかし、その後、恐ろしいことに気づく。
漠都トトッリ、その王城は大きく、都のどの場所からも大抵見える。しかし、小高い丘のような城は今、削り取られたように一部が消滅していた。
「スー!」




