第48話「フォー:デイ3」
スーは溜息をつく。自然の力を手中に入れることが出来れば、かなり有利に戦争を進めることが出来るだろう。しかし、北も恐るべき生物兵器を開発していることを忘れてはならない。下手したら戦争は泥沼化する恐れもある。
何事も見込み通りにはいかないものだ。しかし、スーは政治家では無い。命令が無い限り、余計な介入はしない。
「おい、どうしたんだ、急に黙って」
「いえ、既に核の発掘は成功したらしいです」
耳飾りからは興奮した声が聞こえて来る。
「いいか、決して動かすなよ。大きさを正確に測定して収納魔術で収める」
「結構な大きさですよ。人の身長くらいあります」
「ああ、これ程の大きさなら切り札となり得る。更にこれからもまだまだ、発掘出来るだろう。勝てる、勝てるぞ」
スーは意識を牢屋に戻す。
「なあ、もし良かったら俺をここから出してくれないか?」
「それは、出来ません」
「情報をやる。農刀の設計図だ。俺の頭の中ではあらかた完成している。出してくれれば紙に起こすことが出来る」
「本当ですか?」
「ああ、暇だから頭の中では何度も模擬実験を行った。だから、バッチリよ」
サラッととんでも無いことを言っている。本当ならば、とんだ天才肌だ。……それが、あの男の劣等感を刺激したのかもしれない。才能ある者への羨望。いや、こんな想像をしても仕方がない。
スーは考える。情報は何にも勝る。男をここで逃すという選択肢は取らなければいけないリスクだ。
「分かりました」
スーは帽子を目深に被り直す。顔が見えないようにスカーフも巻き直した。
「鍵はその辺に無いか? 人も滅多に来ないから案外、その辺に放置されているかもしれない」
「必要ありません。端によって下さい」
スーは〈火矢〉を撃ち込む。鍵が壊れた。
「こわー」
男は呑気に呟く。
「見張りはどうなっているのですか?」
「さあ、ろくに置いていなんじゃ無いか。そもそもここを知っているのはスミスだけかもしれない。食事も本人直々に運んで来た。だから、ラッキーだな。そっちの隙間が意外と奥まで繋がっていたようで。お嬢さんが来てくれて助かった」
隙間は微妙にカーブしているので、一見、奥まで通じているようには見えない。
「こういう所、昔からスミスは抜けてるんだよなー。しっかりしているようで細部の注意は怠っている」
スーたちは牢屋を離れると道を辿って行く。曲がりくねりながらゆっくりと登っているようだった。こちらが正規のルートなのだろう。そして、その終着点、一つの部屋に辿り着いた。小さな部屋だった。しかし、今入って来た以外には入り口がない。木製の壁が造られており、隔離されているような気分になる。
「隠し扉の裏側だな」
男は壁を弄ると、手で押した。壁が開いた。その先には豪華絢爛な調度品が配置された部屋があった。金色が多くて目がチカチカする。そして、今出て来た背面には本棚が置かれていた。壁を戻すと、本棚で小部屋の存在はすっかり隠される。
「ロマンだろ。本来、スミスはこういう奴なんだ」
「……設計図を書いて下さい」
「そうだったな」
男はペンと紙を見つけて来ると熱心に書き始める。そして、あっという間にビッシリと書き込まれた設計図が出来上がる。制作工程や注釈が図案とともに分かりやすく示されていた。
「どうもありがとうございます」
スーは設計図を受け取ると礼を述べる。
「こちらこそ。さて、ここは地下の最上階、王城の地下室だ。見張りは多い。気をつけるんだぞ。俺は一応、城では顔が効くから何とかなるだろうが。軍師派に見つかったらちとヤバいが」
男はさっさと部屋から出ていった。あっけない。警備を呼ばれるかもしれないと思いしばらく身構えていたが、そんなことも無かった。
「ナナ、聞こえる?」
トントンと音が響く。おそらく、少女がそばにいるのだろう。歌声が聞こえて来た。
「今、王城の地下室にいるの。何とかここから脱出を図る」
随分と待たせてしまった。正確には分からないが、もう明け方だろう。
「また連絡――」
スーは言いかけて口を閉じる。爆音が聞こえた。耳飾りの向こうから。近くでは無い。どこか遠くから。
しばらくしてからナナの声が聞こえた。
「光が見えた。あれは、屋敷の方向だ」
「光?」
「何なのかは分からない。取り敢えず、帰還を目指そう。スーどうか無事でね」
ナナが駆ける音が聞こえた。少女の元へ戻ったのだろう。スーは連絡を終える。爆音、光。一体何が起こっているというのだろうか。
スーは渦巻く思考を追い出した。まずは脱出だ。




