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ナナの世界  作者: 桜田咲
第1章「天路歴程」
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第47話「フォー:デイ2」

 徐々に最深部抜に近づいて行く。人の数が段々と増えていき身を隠し辛くなってくる。若者たちは無心に採掘をしている。


「仕事終わったらビール。仕事終わったらビール。仕事終わったらビール……」


 虚な目をして呟く者もいた。アメとムチで働かされているようだ。


 スーは最深部、碗に例えるならば、底面の部分を見やる。自身は側面の洞窟に隠れる。実際に巨人がこの地下空間を碗として用いようとしてもボコボコし過ぎて上手く使えないだろうな、スーはそんなことを思う。


 碗の底面は中央が更に窪んでいるのが見てとれた。碗に空いた穴である。そして穴の内と外をひっきりなしに人が行き来している。正確には現在進行形で最深部は更新されて行っているようだ。 


 そして、その穴の側に立ち、時々穴を覗き込んでは苛立ちを見せる男がいた。スーのいる位置からそれなりに距離は離れているが、忙しなく頭を動かしているのがはっきりと見てとれる。


 今回の目的の男である。どうやって近づこうか。正直、ここにいるのは一般人ばかりだ。多少不審に思われたところで問題はない。一般人は大抵、面倒ごとを避けるものだ。そうで無い者は動きのキレが違うから見て分かる。


しかし、対象本人やその直接の関係者にバレたら、死に直結する。


 スーは懐から指輪を取り出した。盗聴用の音を拾う指輪だ。――上手く拾ってくれるといいけど。


 スーは人の流れを良く見ると指輪を地面に放り投げる。暫くすると1人が指輪に気づいた。辺りをキョロキョロ見ると、指輪を拾い上げ、懐に仕舞う。指輪を拾った若者は穴へと向かっていった。スーは耳飾りから聞こえる音に耳を傾ける。


「……核はまだ、見つからないか。奴の、理論通りならば必ずある筈なんだ」


「もう暫くお待ち下さい」


 利発そうな若者の声が聞こえる。


「必ずや、軍師様の期待に応えねばならないのだ。己の才能を証明しなければならない。己の才能は決して埋もれていていいようなものではない」


 武器製作者が答える。――実際に製作をしている訳ではないかもしれない。しかし、計画立案はこの男だろう。


「予定では日が明けるまでには発掘される予定です」


「軍師様は間もなく出立される。それまでに結果を出さねばならない」


「出立?」


「余計なことは聞くべきでない。兎に角、可及的速やかにだ」


 スーは重要な情報に近づいていた。しかし、人がスーの潜む洞窟に近づいて来た。スーは奥へと逃げ込む。人影は幸い、洞窟の入り口付近で佇んでいるようだ。サボりだろう。


 スーは、微かなノイズを聞き取った。耳飾りの向こうからでは無い。洞窟の奥から響いている。スーは音を辿って奥へと進んで行く。洞窟は狭まって行く。スーならば何とか通れる大きさだった。ここで働くような大人の男には無理だろう。


 通り抜けた先は、急に開けているのが見えた。そして、一つの牢獄がそこにはあった。男が1人、投獄されている。手には石ころを握り、壁に叩きつけ、音を発生させている。


 スーは考える。この男は益になり得るか。スーは迷った末、洞窟を何歩か、ジリジリと後ずさると相手から見えない位置に下がり、話しかける。


「すみません」


「うん、別嬪さんの声だね。そこの隙間にいるのかい? そこを通れるってことは随分小柄なようだね」


「あなたはなぜ、ここに閉じ込められているのですか?」


「疎ましいんだろうね、この俺が。どうやら、俺は才能を有効活用しようとしない悪人らしい」


「……もしかして、ガリガリでギラギラした目の人に閉じ込められたのですか?」


「はは、違いない。そいつだ。スミスだ」


「悪人ってどういうことですか?」


「俺は都民、特に力無き農民の為に武器を作ったんだが、それが気に入らなかったらしい。まあ、それで都が劇的に良くなる訳では無いからな。スミスにとっての正解は都を最短経路で富ませることにあるらしい」


「……その、スミスは戦争を望んでいます」


「まあ、それも悪くない選択なんだろうよ、スミスにとっては」

 

「そうですか。では、核って何ですか?」


「……そうさねえ、何から説明しようか。まず、農刀の原理から説明しないといけない」


「お願いします」


「農刀は、砂で出来ている。モモ砂漠の砂だ。そいつを溶かして鋳造している。そしてモモ砂漠の砂は魔力が結晶化したものだ」


 男は理解を促すように一呼吸置く。スーは頷く。そのような仮説が存在するのを聞いたことがある。


「分かってくれたのかな? 魔力は摩訶不思議だ。魔力によって何が引き起こされるかは分からない。しかし、少なくともモモ砂漠の砂は魔力を制御することが分かった」


 男は咳払いをする


「より、正確には魔力の濃度を調節する。止まっている時は薄く、動いている時は濃く。そして、この働きは結晶が綺麗な程、良く働く。この濃度の差がエネルギーを発生させ、河は流れ、刀は衝撃波を放つ。分かるか?」


「ええ」


「核とは、大きな魔力の結晶だ。安定した地下に大きな結晶があるのでは無いかと俺は想定している」


「どうしてですか?」


「核が無いのならば、河の流れはもっと不安定な筈だ。小さな粒子がそれぞれ作用を働かせている訳だからな。だが、安定した流れが河には存在する。河の流れを支配するものがある証拠だ」


「それを採取しようとしている訳ですか」


「ああ、王宮の地下ならば、都周辺の河の流れへの影響は少ないと踏んだのだろう」


「その核を手にしたらどうなるのですか?」


 スーは耳飾り越しにもう一つの声を聞いていた。


「発見しました。核を発見いたしました」


「――そうだな。それは際限の無い河の奔流の如き力を手にしたのと同等だ」


 自然の力を手に入れる。それは戦争への自信を持って当然だった。



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