第46話「フォー:デイ1」
スーは岩の割れ目から地下に降りて来たようだった。頭上を見上げると砂が少し溢れた。スーはナナへの連絡を終えると探索を開始する。
地下は今、着地した場所より更に深く掘り進められている。碗のように窪んでいて、スーはその縁に当たる部分にに降り立った。予想していたよりも広大である。単に武器製作の場というだけではなくて何かを掘り出そうとしているように見える。農刀以外にもまだ何かある?
スーは深奥へと進んでいく。碗の底、そこに何かありそうだった。碗の側面には部屋があり、多くの若者たちが働いている。積極的な者と消極的な者が半々くらいだ。――もしかして現在、徴兵されている者はここに動員されている?
すべて陽動だったという仮定はどうだろう。戦争をする為に兵を集めているのではなく、兵、人材を集める為に戦争を起こそうとしている。そして、そんな馬鹿げた行為を肯定する何かが地下にある。
スーはゾッとする。この場合、誰に対しての陽動になるか。地上で暮らす人々、そして近辺の都に対してだろうか。漠都トトッリは潜在的に南都の敵となる。これは、想像だ。しかし、完全なる妄想では無い筈だ。地上ではほとんど見なかった若者がここにいる。何らかの企みが存在しているのは明らかだ。
スーは物陰から周囲を見渡すと怠慢そうな若者を探す。周りから孤立していそうな者なら尚良い。スーは最適な若者を見つけ出すと、若者を素早く物陰に引き込んだ。元々は自然の洞窟を加工して出来ている空洞のようなので、都合の良い物陰が多いのが幸いである。
「何だよ、お前」
「聞きたいことがあるの」
スーは金貨をちらつかせる。
「いいぜ、話す」
若者はあっさり従う。
「あなたは、どうしてここにいるの?」
「ほとんど誘拐だよ。徴兵されたと思ったらここに連れて来られた」
やはり戦争は主目的では無いようだ。そうでなければ、育成しなければいけない兵をこんなところで腐らせておく必要は無い。
「ここは何をしているの?」
「さー? 色々しているみたいだけど、俺は知らないね。何か魔力を制御する研究? そんな感じ?」
「この広い空間も研究の為ってこと?」
「あー、何か、掘っているみたいだな。何か探しているとか」
仮定がどんどん現実になっていく。
「どんなものか分かる?」
「ああ、何でも戦争に勝つためのキーアイテムだとか」
「えっ」
これはスーの予想と違う部分だ。……戦争に勝つことを見据えている? 兵も鍛えずに? 武器を持てば、一般人でも脅威になり得る。しかし、それでも一般人の寄せ集めでは北に勝てる程の戦力にはならないだろう。無論、兵士を育成していたところで、それでも尚、北は脅威であり続けるだろうけれど。
「じゃあ、最後にここの地下を治めている者がどこにいるか分かる?」
「ああ、何だか、偉そうな奴は時々見るな。最深部まで毎日行っているみたいだぜ」
「どうも、ありがとう」
「なあ、よく見たら人形みたいな肌してるな。かわいいなあ。ちょっと顔も見せてくれよ。金はいいからさ、ちょっと――」
スーは黙って、若者の腹に拳を叩き込んだ。若者は呻くと腹を抱え込んで倒れ込む。
「これはあなたの命の値段よ。口外しないようにね」
スーは金貨を放った。志の低そうな者を選んだのは失敗だった。しかし、志を高い者を選んだのとしても情報は提供してくれなかっただろう。それどころか通報された可能性も高い。スーは溜息をつくと、最深部を目指して、隠密行動を開始した。




