第44話「砂漠の歌姫5」
ナナは2階の探索を終えると、スーと合流した。少女の見張りのおかげで効率良く探索が出来た。少女はナナに何も尋ねなかった。
「ナナ……」
スーは何かを察したように呟いた。
「スー、私はこの少女を救う」
「分かった。助けよう」
「ごめんなさい」
「謝ることないよ」
スーは微笑んだ。しかし、落ち着いている暇は無い。人が騒ついているのが聞こえる。
「窓を開けて侵入した時の痕跡が見つけられたみたいだね。なるべく目立たないようにしたのだけれど」
スーの言葉に少女が動揺する。
「逃げられるの?」
「大丈夫だよ」
ナナは答える。
〈ミミナリ〉、この魔術は小動物を追い払う時などに使う音を発生させる魔術である。基本的な魔術だが、この魔術もまた、ナナの手腕によって、最大限にポテンシャルが引き出されていた。
「おい、今、そっちに駆けて行く足音がしなかったか? 追え」
少女は戸惑った表情を浮かべる。足音がナナたちがいる方向とは全然、関係ない方で発生していた。まるで透明な生物が走り抜けていったようだ。
「今のうちに行こう」
スーの言葉にナナは頷くと、窓から外に出た。足音で混乱しているのか、庭にいる見張りは少ない。しかし、塀の穴は既に発見されていたらしく見張りが陣取っている。
「おい、こっちに来てくれ」
ナナは声を作った。人の発声は複雑だ。それを魔術で模倣しようとしてもどこか不自然になるが、緊急事態で相手が焦っていれば誤魔化すこともできる。
「何だ、賊が見つかったのか?」
見張りが移動した隙を見計らって、ナナたちは敷地の外に脱出した。そして、慌てることなくその場を後にした。
「お見事!」
スーが言った。取り敢えず、屋敷から抜け出せて安心である。
「さて、ナナは何か情報を手に入れられた?」
「何も」
「私もだよ。正確には屋敷には何も無さそうだということが分かった。物々しい屋敷だったけれど、中は案外空っぽ」
「昼間には、人々がいっぱい集まるんだよ。そして人が集まるから、仕事も集まるってお兄ちゃんは言ってた」
少女が言った。
「どうも、ありがとう。やはり屋敷は人の仲介を担っているみたいだね。……あの男は兎に角、才能を見る目に優れている」
スーが答える。
「あなたたちはお屋敷の主人を探っているの?」
「そう。――今更だけれど私たちのことは口外禁止ね。死ぬことになるから」
スーは誰が死ぬかは言わなかった。
「うん、分かった」
「本題に戻ると、つまり武器製造者の秘密を探るためにはまさに武器を製造している拠点に行かなくてはいけない。そして、その場所は中央」
スーが指差す先には、小高い丘のような建造物の影が浮かび上がっている。漠都トトッリ、その王が住まうという城だ。
「あの王城の地下で武器の製作は行われている」




