第41話「砂漠の歌姫2」
「どういうおつもりですか、副議長様?」
宿屋に着くとダンが真っ先に尋ねる。
「何が言いたいのでしょうか?」
「迎賓館での宿泊を拒否するなど、あらぬ噂が立つかもしれません」
ダンは純粋に心配しているのだろう。そばでアラカは戸惑ったような表情を浮かべている。事態をよく飲み込めていないのだろう。バンカは変わりなく、副議長に付き従っていた。
「問題はありません。あなた方は私の護衛を継続して下さい」
「かしこまりました」
ダンは自身の感情を引っ込めると恭しく頷く。
「今日はそれぞれの部屋で休んで下さい。何かあったら呼びましょう」
副議長はそう言いながらナナをチラリと目線を合わせた。ナナたちは部屋に向かう。ダンとアラカは、ナナとスーはそれぞれ同じ部屋である。そして副議長は1人部屋、バンカは少年と共に部屋をとっていた。少年はまだ帰っていないようだが。
ナナとスーが部屋で休んでいると、バンカがやってきた。
「副議長様がお呼びです」
「分かりました」
先程の目線の意味はこれだろう。バンカに案内され、ナナとスーは副議長の部屋に向かった。部屋の内装はナナたちの部屋と変わり無かった。副議長が泊まっている部屋には思えない。
「頼みたいことがあります」
副議長が言った。
「何でしょう」
ここで言う頼みとは命令である。
「先程、顔を合わせた武器製作者について探って欲しいのです」
「他の都の軍事に探りを入れるのは不味いのでは無いですか?」
スーが尋ねる。スーは尋ねながらも副議長の答えを予想しているようだった。ナナもピンとくる。
「ええ、ですから、独断で行って欲しいのです」
適材適所、ナナとスーはある意味で捨て駒であった。これこそが今回の任務に冒険者組合エージェントが参加している意味であった。単なる防衛にしては過剰過ぎるのである。どこまでが予定通りかは分からないがこのようにナナとスーを使うことは予定通りなのだろう。
「了解いたしました」
「何か、聞きたいことはありますか?」
この質問が想定しているのはナナは抱えている疑惑だろう。ナナは意を決して尋ねる。
「どこまでが想定通りなのですか? ――見えているのではないですか、未来が」
「ええ、もちろん未来を見据えていますよ。だからこそ、調査を依頼しているのです」
これは牽制なのだろうか。それとも未来予知の力など、穿ち過ぎた妄想だったのだろうか。ナナは分からなくなる。副議長の言葉はいつもひどく誠実に聞こえる。誤魔化されているのか本心の言葉なのか分からなくなる。
ナナとスーは密かに宿屋を抜け出した。灯りの灯っている場所はもう殆どない。真夜中である。
「さて、どこから当たろうか? 迎賓館?」
スーが言った。
「いや、武器製作者の屋敷を探る」
「屋敷?」
「少女と他の演者が屋敷について話しているのを聞いたんだ。場所の検討もついている」
「……そっか。私は気づかなかったよ」
無理もない。余興の最中は騒がしかった。意識して耳を傾けていなければ言葉を聞き取ることは出来なかっただろう。
「じゃあ、行こう」
「あのさ、ナナ」
「何?」
「今回の目的を忘れないでね」
「勿論」
ナナは返事をした。ナナとスーは武器製作者の屋敷へと向かった。




