第37話「真実と虚構の砂漠4」
盗賊団の人数は20人程度、おそらく漠都トトッリへ向かう冒険者などを待ち構えていたのだろう。冒険者は収集や探索で対価を得る。しかし、もっと手っ取り早く対価を得ようと思ったら他人から奪い取ればいい。漠都の住人であったのならば河の流れを利用して、効率よくそれが成し遂げられる。
「出来ることならば、穏便に済ませたい。さっさと差し出しな」
リーダー格と見られる者が言った。マスクを被っているので分からないが声の調子から判断するに、中高年の男だろうか。
物資は潤沢である。それを差し出せばこの場を穏便にやり過ごすことも出来るかもしれない。そういう手もある。ナナは馬車の前方に座る副議長の気配を窺う。副議長は沈黙していた。命令を出す気配も無い。
「返答しろ。こちらは強引な手段を取ることもやぶさかでは無い」
強引な手、それも1つの選択である。どちらにしてもこちらの安全は担保出来ている。
「あなたたちは何故、盗賊をやっているのでしょう?」
副議長が朗々とした声で尋ねた。よく響く声で。
「何故って、生きていくためだよ。働き盛りの若い男たちは皆、徴収されちまった。その上、増税だ。生きていくためにはこうするしかない」
「徴収?」
「ああ、戦の準備らしいが知ったこっちゃない。俺たちは毎日、生きていくので精一杯だ」
「……盗賊は割に合わないでしょう。そうそう襲う相手も見つからない筈だ」
「生きるためには何としてでも糧を掻き集めなければならないんだよ」
副議長はどうでもいいような質問を重ねていく。何か時間稼ぎをしている。ナナはそう感じた。
その時、遠吠えがした。ナナは直感的に先程の狼だと分かる。去っていったと思ったが遠くから見守っていたのだ。巨大な躯体が駆けてきて、馬車と盗賊団の間に割り込む。盗賊たちはたじろぐ。リーダー格の男も黙り込んだ。
「幸運なことですね。先程、助けた狼の番が助けに来てくれたようだ」
副議長は盗賊団に向けて語りかけた。盗賊団は河へと飛び込んでいく。砂の流れは盗賊たちを速やかに遠くまで運んでいった。姿はすぐに見えなくなる。続いて、狼も姿を消した。
――副議長になるための素質とはなんだろうか。都を治める上で重要な役職である。並大抵の人間では無理だろう。特殊な才能を持っている必要があるかもしれない。
副議長はここまでの旅においてあまり言葉を発していない。そして、適切な時に発言をし、そしてその後、事態は上手くいった。それは単に政治的な才覚であろうか。ナナは考える。副議長はまず狼について行くように指示した。そしてその後、怪我をした狼を治療するように命じる。そして今、その狼が盗賊を追い払ってくれた。
これは寓話ではない。実際に今、起こった出来事だ。ナナは思う。副議長は未来予知が出来るのではないか? これが単なる妄想なのか真実なのかナナには分からなかった。




