第34話「真実と虚構の砂漠1」
モモ砂漠、それは南都と大都の間に横断するように存在する砂漠である。そして砂漠の中心には今回の六都同盟にも参加予定の漠都トトッリが存在する。
馬車は砂と岩肌が入り混じるような境界で止まる。
ナナたちは順番で見張りをしつつ夕方までし仮眠を取った。少年はいいとして、バンカも相変わらず見張には参加しない。そういえば、魔術を使う素振りも一切見せない。バンカはあくまでも御者に徹しているようだった。
夕方になると馬車を進めていく。丈夫な馬だが砂地のため歩みはやや遅めだ。これから漠都トトッリを中継し、大都コーサカを目指していく。
砂漠の風景は刻一刻と変化していく。砂漠では地形による目印は当てにならない。モモ砂漠は冒険者に幾つもの顔を見せて、惑わす。
「……砂が流れている」
スーが呟いた。それはやはり奇妙な光景だった。ただ風で動いているのではない。帯のように砂が流れているのが感じられた。
「河だな」
ダンが返事をした。
「水が無いのに?」
少年が尋ねた。
「ああ。だがあの流れが漠都における運河の役割を果たしている。だから河だ」
アラカが説明した。
「そっか」
少年は分かったのか分からなかったのか、曖昧な相槌を打った。
夕日で美しく照り映えるモモ砂漠をナナたちは進んでいく。段々と夜が近くなってきていた。星々が少しずつ見え始める。獣たちが活動し始める気配がある。砂漠は殺風景だが存外に豊かな生態系がある。
何かの遠吠えが聞こえる。
「気を張っていけよ」
ダンが言った。
馬車は、夜空の下、歩を進めていく。慎重に、迷わぬように進んでいく必要がある。どこかでまた、遠吠えが聞こえた。砂の河が静かに流れている。この砂は一体どこから来て、どこへ向かっていくのだろう。ナナは考えた。また遠吠えが聞こえる。幸い、近づいてくる気配はない。
少年は星空を眺めていた。そして、遠吠えが聞こえる。
「……」
「おかしい。先程から、遠吠えの位置も方向も変わっていない」
アラカが言った。ナナにもその違和感は十分に理解出来た。何か、同じ音を繰り返しているように聞こえる。人の耳というのは案外、敏感なものだが、ナナの耳は遠吠えを全く同じ音だと捉えていた。それはアラカの言う通り、音の出どころが全く変わっていない為だろう。
「砂漠の魔術ってやつだな。俺たちは砂漠に化かされている」
ダンが言った。そしてバンカに馬車を止めるように頼む。
砂漠には道標は無い。だからコンパスや星を手掛かりに進んでいく訳だ。しかし砂漠は時に嘘をつく。




