第33話「通過」
馬車に食糧と水を積み込むと、ナナたちは森へと戻った。そして手短に食事を済ますと眠りにつく。見張りは猿たちがやってくれるそうだ。ドゥーが出来るのはあくまでも動物と交渉することだけである。だから、ここまで尽くしてくれるのはドゥーが単純に猿たちに好かれている、ということになる。
翌朝、ナナは早朝に目が覚める。ドゥーが猿たちの毛繕いをしていた。
「そう慌てるな。順番にしてやるから」
ドゥーが笑った。いつもの胡散臭さ、軽薄さは感じられず、実に爽やかな笑顔である。ナナが眺めていると、ドゥーは宣言通り、全ての猿の毛繕いを終えたようだ。随分数がいるので、相当な時間がかかった筈だが、そのような気配は微塵も感じさせなかった。
「またな」
ほとんどの猿たちは帰っていった。何匹かは残って周囲を熱心に見渡している。彼らは代わる代わる見張りをしてくれていたのだ。これから住処に戻って休むのだろう。猿たちを見送ると、ドゥーは一息ついた。
「おはようございます」
ナナはドゥーに声をかける。
「ああ、おはよう。清々しい朝だ。踊るかい?」
「いえ、踊りません」
「そうか。また暫く会えなくなるのにいいのか?」
「……そう言えば、今は何の任務についているんですか?」
ナナはドゥーの言葉を無視しつつ、ドゥーに近づくと小声で尋ねた。
「ああ、近頃、冒険者が全滅する事例が多発していてね、何かあるかもしれないってことで探索を任された」
「そうですか」
「サカイ村での事件も、そこで気持ち良さそうに寝ている少年も、もしかしたら裏に大きな危険が潜んでいるのかもしれない」
「何かあったらこちらからも連絡します」
「ああ、頼むよ」
他のみんなも続々と起きてきた。ドゥーが朝食を用意する。新鮮な果物、これも猿たちが用意してきたものだ。初対面は不気味に感じたが、今ではナナは猿たちに頭が上がらなくなっていた。
「さて、案内はここまでだ。俺は行こう」
ドゥーは朝食を終えると森の奥へとそそくさと去っていった。一同は馬車に乗るとサカイ村の周縁を大きく迂回しつつ、進んでいく。
「サカイ村、滞在してみたかったね」
スーが言った。
「そうだね」
あいにく、ナナもスーもこれまでの任務でサカイ村に訪れたことは無かった。
「帰りにまた寄れるさ。上手くことが進めばな」
ダンが慰めるように言う。
「その時を楽しみにしよう」
アラカが頷きながら言う。少し意外な気がする。
「エルフと是非、手合わせをしてみたい」
ああ、そういうことか。ナナは納得がいった。
「あの、僕も、僕も来れるかな」
少年はその内、保護できる誰かに引き渡すことになっている。一緒にこの村まで戻ってくることはないだろう。
「……気の合う仲間と共に訪れたらいい。探していた気がするんだろう、そういう仲間を。ならば実際に見つけてここまで冒険してくればいい」
アラカが言った。そういえば以前、少年はそのようなことを言っていた。けれどもアラカがそんな少年の発言を覚えていたことが驚きである。
「うん、そうだね」
風景は徐々に移り変わっていっていた。森、草原、これまでは草木が生い茂った風景だった。しかし、段々と地肌が露わになり、風景は殺風景になっていく。そして、ついには地面はザラザラとした砂に変わっていた。
桃色を帯びた美しい砂原、その名をモモ砂漠という。
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