第328話「信仰と虚実の砂漠4」
狼が動きを止めた。もう目的地に到着したようだ。てっきりシックスが神の手掛かりがあると推測する大都コーサカへと向かうのかと思っていたが、違ったようだ。まだ、砂漠すら脱していない。だが、理由があって足を止めたというのは一目で分かった。そこには1人の少女が佇んでいた。獣の耳の少女。見覚えがあった。狼馬帝国皇女の従者だ。
ナナは如何なる言葉を口にしようか迷う。何故、こんな所にいるのか。いや、その前によく生きていたものだと思う。あの時、空を駆ける馬車は崩壊し、ナナ達は空中に放り出されたのだ。普通に考えたら、その後に待ち受けているのは落下の衝撃による死だろう。だが、ナナは当然、死なず、獣の耳の少女も死んでいなかった。では、あの時、同行していた皇女はどうか。
「あなたは……」
獣の耳を持つ少女も何を口にすべきか迷っているようだった。
「おや、知り合いですか?」
シックスが口を挟む。
「縁ある人です」
ナナは答える。
「そうですか。まあ、それはさておき、早速本題に入っていきましょう」
「本題?」
獣の耳の少女は戸惑ったように言う。
「ええ、あなたは私達の求める何かを持っています。だから、狼は私達をここに連れて来たのでしょう」
シックスの推測に同意するように狼は短く吠える。
「何かと言われましても」
「狼が人であるあなたと私達とをわざわざ引き合わせたということには、大きな理由がある筈です。そうですね。私達は答えを欲しているのかもしれません」
「答えと言われましても、質問が無ければお答え出来ません」
「……何かを感じ取れませんでしたか。それが、どのように感じられるのか私には分かりかねますが。ちょうど先程、狼たちが遠吠えを始めた時です」
スプリングフィールドが横から言った。
「あ、はい。違和感を覚えました」
「どういうことですか?」
サキマがスプリングフィールドに尋ねる。
「彼女もまた、真の神に共鳴出来る存在なのだろうということですよ。外見から察するに彼女は狼の力を有しているようですから」
「ええ、私もそう思います。違和感とおっしゃいましたが、あなたは何らかの存在を感知したのではないですか?」
「はい。それで、あっちの方の空気がピリピリしています」
少女は、大都コーサカの方向を指さした。
「……これも1つの答えではあると思いますが」
シックスがそう呟いた時、泣き声が聞こえて来た。より正確に言うのならば、人の赤子が泣きじゃくるような物音だ。獣の耳の少女は真っ先に動く。そして、側で何かを囲んでいる狼たちの下に駆け寄り、少女は赤子を抱え、戻ってきた。少女は、赤子を宥める。その場にいる全員がそれをじっと見守る。ナナ達だけでなく、狼たちも。暫くして、赤子は泣き止んだ。
「あの、どういうことでしょう。肌が緑色?」
サキマが言った。
第198話参照




