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ナナの世界  作者: 桜田咲
第3章「ラーマーヤナ」
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第319話「提案」

 ナナは空を見上げる。地面から見上げる空は遠くに感じた。数日経っても空の上に居た感覚が抜けない気がする。そして地面の頼もしさに安堵感を覚える。だが、不安は心中に鎮座する。遂にここまでやって来てしまった。今更、どうしようも出来ないが、何とかする手立ては無かったのかと考えてしまう。そもそも何をすべきだったのかも分かっていないのに。


「ナナ、食事にしましょう」


 シックスが話しかけてくる。ナナは頷く。


 数日前に、ナナ達は、海を越え目的の地にまで辿り着いた。そして、上空からの見分の結果、モモ砂漠近くの荒野が飛行機械を地面に降下させる場所として選ばれ、今も境界監視団の拠点が設置されている。勿論、地面が整備されている訳では無いので、問題も少々、起こったが、幸い、大事故に発展することは無かった。いや、実の所、その過程では、中々、劇的な出来事があったらしいが、ナナの関与することでは無かったので知らない。「燃料漏れ」とか「激突寸前」とかそういう言葉を伝え聞くばかりである。だが、結果として、無事だったのだから、それでいい。


 ナナにとって、重要であったのは、その後に入ってきた情報である。それは、南都ナーラ壊滅の知らせ。では、冒険者組合はどうなった? 冒険者組合エージェントの仲間たちは? ボクは逃げ出したことで、又、仲間を殺してしまったのか? 崩れ落ちそうになったナナをシックスが支えた。ああ、駄目だとナナは思う。仲間が側にいるんだ。絶望なんてしていては駄目だ。


 その後、齎された情報により、点と点が繋がった。つまり、ホワイトハウスを壊滅させたのと同じようなことがこちらでも起きていたのだ。そして、恐らく、門番は、文字通り、南都とホワイトハウスの空間を繋ぐ”門”を通って大陸へとやって来たのだ。逆に、あの時、”穴”に落ちたナナは、南都のすぐ側まで戻って来ていた。今更、気付いたところで何もかも遅いが。


 だが、悪い事ばかりでは無い筈だ。ナナは、モモ砂漠を見た、サキマの表情を思い出す。驚きと感動、冒険の醍醐味。


 仲間たちと共に過ごした拠点が失われたのは、辛い。自分の旅の結末がこんなものだなんてまだ、認めたくない。しかし、自分とは全く無関係な旅の同行者が景色を無邪気に楽しんでいるのを見て、少しだけ心が楽になった気がした。


 ナナはシックスが用意してくれたスープを啜る。この先、どうしようか。冒険者組合エージェントの生き残りがいないか、捜索をすべきか。全てを投げ出した自分にそんな資格があるのか。まだ、シックスとは何も話せていない。


「シックスさん」


 スプリングフィールドが話しかける。スプリングフィールドとはここ数日、盛んに情報交換をしていた。南都壊滅の報もスプリングフィールドから伝え聞いたものだ。そして、ナナ達も事前に伝えるべきことは伝えたつもりだったが、現地に来ると新たな疑問が出てくるものなのだろう。スプリングフィールドは様々なことを尋ねた。一方、レミントンは、到着してから一度も顔を見ていない。一応、生きているらしいのだが。余程、忙しいらしい。まあ、元気にしているのなら何よりだ。


「何ですか? また、お聞きしたいことでも?」


「違います。ただ、提案したいことがありまして。シックスさん、()()()()、先生になりませんか?」


「どういうことですか?」


「言葉通りです。私やレミントンの母校で教職の枠が空いています。シックスさんさえ了承して下されば、紹介することが出来ます。そして、ナナさんは、そうですね、学生として推薦してもいいかもしれません」


「ふふ、この見た目で、ですか? 先生らしい威厳なんて無いでしょう」


「確かに、レミントンに紹介された時は、胡散臭い子供達だと思った。だが、少なからず今は友情を感じている。分かっている、今の互いの立場じゃ、一方的な気持ちだとな。だが、2人がブラックガウンで職を得れば、同じ国の民として対等な友達になれる」


 スプリングフィールドは必死なまでに語り掛ける。言葉の節々から親身になってくれているのが伝わる。しかし、ナナは、本筋では無いだろう部分で、違和感を覚える。子供か。スプリングフィールドから見たら、そう見えるのだろうか。


「それは南都ナーラ壊滅の報があったから提案したことでしょうか」


「隠したって仕方が無いようだな。その通りだ。本当は、この提案は胸に秘めておくつもりだった。寧ろ、こっそりとお前たちを解放するように取り計らうつもりだった」


 ナナは考える。以前、魔女狩りにも勧誘された。今、再度、提案されたら答えは違っているだろうか。


「ちょっと、滅多なことを口走らないでください。他に聞いている人は――。うん、いらっしゃらないようですね」


 サキマはキョロキョロと辺りを不安そうに見る。幸いにして、いつも通りのことだが、ナナとシックスは一般の団員とはみだりに接触しないように特別扱いを受けていたので話を聞かれる心配は無かった。


「いや、そもそも私に話を聞かれるのも不味いでしょうに」


「これは、プライベートの話だ。報告義務は無いだろう?」


「ええ。それに、私の言葉で誰かが困難に陥ってしまうのは私の望むところではありません」


 サキマはぶつぶつと呟くが、スプリングフィールドは意に介さない。サキマとスプリングフィールドはいつの間にか、仲良くなったようだった。あの”捻じれ”に遇して、互いに弱さを晒し合ったからだろうか。


「どうだ? 提案を受けてくれるか」


 シックスはナナを見た。ナナは俯いてしまう。


「申し訳ありませんが、保留にさせて下さい。考えておきます」


「そうか、分かった。じっくり考えてくれ。……考えて下さい」


 


 










 


 

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