第313話「Let's Go !!」
「いよいよ、今日ですか」
シックスが言った。最も寒さが深まる時期、全ての準備は完了した。遂に海を越えた進行が開始される。ナナ達は、レミントンとスプリングフィールドに案内されて、飛行機械に乗り込む。火桜の民を連行してきた巨大なものだ。物資が積み込まれているものの、乗客は殆どおらず広々としている。というより、ナナとシックスの為に特別に座席が確保していたようだ。
「境界監視団のその衣装も久しぶりに見ますね」
シックスがレミントンに話しかける。
「ええ。正確には境界監視団の制服という訳でもありませんが。この皮膚に張り付くピタッとした服は飛行服ですので」
「そうだったのですか」
雑談をしながら歩いていると席に到着する。
「では、快適な空の旅をお過ごし下さい」
レミントンは去って行った。
「さて、私はあなた方の護衛、或いは監視です」
一方残ったスプリングフィールドは明け透けにそう言った。
「ええ、それは承知しているのですが――」
シックスは相槌を打ちながら、ずっと黙っていたサキマを見る。顔を合わせるのは久しぶりである。サキマは旧・ホワイトハウスに到着してからは一般的な魔女狩りの一員として働いていたようである。その間、特権を行使する気は無い様だった。
「ああ、その通りです。サキマも同行します。まあ、あなた方の同行者として軍と魔女狩りから1人ずつ選出するのは理に適っています。これまで介入してこなかっことこそ奇妙なのです。ですから新人とはいえ、魔女狩りから同行者を派遣してきたのには納得できました。寧ろ、任地に到着してからの動きこそ納得できていません。何故、一般団員のように働いているのか。」
実際には、しっかり接触してきているけれども。だが、確かに軍に対して自分たちの引き渡しを要求をしても良かっただろうに、随分と温和な手段をとったものだ。ナナは、自分たちという異物がどれ程の影響力を持つのか未だに推し量りかねている。当初、レミントンが期待していた、状況を一変させる程の影響力は無いようだが、賓客のような扱いが容認される程には、特別。
結局、ナナ達はよく分からないまま、ここにいるのだった。無論、レミントンの働きのおかげと見ることも出来るが、上層部はナナ達の存在を認知しているのだ。防衛長官やら高等審問官やらの思惑がそこにはある。
「……以前、申し上げた通り、観察しておりました。軍の様子を見る絶好の機会でしたので」
豪胆にもサキマはそう言った。ナナは気づく。サキマの観察対象は自分達だけでは無かった。魔女狩りという立場から、軍を見る。機密に接触できる訳でも無いだろうに、何の意味があるのか分からなかったが目的は理解した。
「今回の任務の内容は、軍と魔女狩りで完全に共有されている。当然、どちらの出身にしろ一般団員ではアクセス出来ない情報もあるが、サキマは魔女狩りのお気に入りのようだ。軍に接触しなくても情報は手に入る筈だが」
「私がお気に入りなどと、とんでもございません。それはさておき、別に機密情報を手に入れたい思っている訳ではありませんよ。観察という言葉が誤解を招いたのでしょうか。そうですね、見学と言った方が良かったのかもしれません」
「ただ、軍隊式の仕事ぶりを近くで見たかったと? 確かに、団員達の混乱を避ける為、下位スケールでは軍と魔女狩りのやり方を統一していない。だから、軍隊らしさを見て取る事が出来るだろう。完璧にやり方を統一する程の時間は取れなかった。――作戦単位での統一がとれていれば、十分であるという上の判断だ。完璧ではないがな」
スプリングフィールドの言葉にサキマは頷いた。
「おっしゃる通りです。そして、今はそちらのお2人の様子を見学させて頂きます」
「さて、話が逸れました。私自身、腑に落ちないのですが、取り敢えずサキマの言葉を飲み込むことにしましょう。こういう訳で、私とサキマが側で控えておりますので、よろしくお願いします」
「ええ」
そんな話に耳を傾けていると、ナナは浮遊感を覚える。遂に陸路を離れ、海へと飛び立っていくのだ。




