第312話「旧・ホワイトハウスにて」
人の能力の限界はどこにあるのだろうか。どんどんと整備されていく町を見ながらナナは思う。勿論、基礎となる部分は既に存在していたわけだが、空っぽの町が俄かに活気づいていた。特に飛行場は目に見えて発展していた。そして、驚異的なことに彼らは魔術的技術を利用していないのである。彼らがもし魔術を手にしたら更なる飛躍を遂げるかもしれない。
だが、ナナは知っている。大都ナーラ、短い時間で天空まで伸びる町を築き上げたもの達を。一夜で造ったとまでは言わないが、それでも日進月歩の早さで造り上げたのだ。実に脅威的である。
ナナは未だに、魔術と非魔術の最初の接触が何を生むのか考えあぐねている。シックスはエムエスの技術を評価、警戒しているようだった。つまり、長らく境界のこちらとあちらを分断してきた秩序を齎す技術を。しかし、ナナは過大評価であるように思う。事実、大樹の異常成長や空間の歪みといった混沌的事象を排除できていない。魔女狩りが開発したという新型は、門番の力を抑制したというが、果たして本当だろうか。実際に抑制出来ていたとしてもそれは恒常的なものではあり得ないという予感がナナにはあった。
しかし、エムエスが十分に効果を発揮しないからと言って連邦が恐れるに足らないということではない。彼らの持つ技術には目を見張るものがある。飛行、建築、軍事など。彼らの総力を決すれば、出鱈目な力を意のままに用いる天使を相手取っても、かなりの損害を与えることができるかもしれない。
これ以上、やめよう。何で、戦うこと前提なんだ。もっと、平和な接触もあり得るかもしれないではないか。今回の遠征は調査という話なんだ。――では、何でこんな大戦力を投入するのか。ナナは前向きに考えようとするが、悲観的な発想は無くなることが無い。如何なる予測だって意味の無い事なのに。
「あー、暇だな」
ナナは呟く。割り当てられた部屋から外を眺めているだけなのも飽きた。暇は大敵である。余計なことを考えてしまう。
「レミントンの心遣いなのでしょうが、仕事が無いというのも辛いものですね」
旅が快適であるようにとレミントンが手配してくれた部屋。皆があくせくと働く中、こうして有閑の滞在生活を送ることができているのは随分な特別扱いだろう。名目上、客員ということになっているが実質的には賓客といってもいい扱いだ。
「何もさせたくないということなのかもしれ――」
「どうかしましたか?」
「……今、外に門番の姿を見たような気がしまして」
「やはり、ですか」
シックスが答える。ナナも頷く。見間違いであるとは考えなかった。門番はこの遠征に同行するだろうと確信していた。だからと言って何かが出来るわけでもないが。しかし、ナナは密かに思う。次に相まみえた時は思わせぶりな言葉では終わらせやしないと。門番とは決着を付けなければならない。
ナナは自分の気持ちに驚く。何でこんなこと思ったんだろう。ナナはシックスと目が合う。そうか、仲間の為にか。




