第310話「二羽連帯」
「In the realm where moonlight and daylight blend, A journey begins, a story to transcend♪」
レミントンが歌を口ずさむ。定番の曲なのだろうか。以前も聞いたことがある。
「Beyond the description of the boundless sky, Our souls embark, as time slips by♪」
スプリングフィールドがレミントンの歌に合流するように口ずさみ始める。それに釣られてか、愛の園の元リーダーも鼻歌を歌っていた。ナナもそれに合わせて小さく手拍子をする。シックスが微笑んだ。ナナも少し安心する。ここに来てようやく沈黙してばかりの青年の心の綻びが見えた。旅の同行者が心を開いてきてくれているのならば何よりである。歌はやはり偉大である。――陰鬱な気分を払う。
町が近づいていた。といっても、目的地となる旧・ホワイトハウスでは無い。現在のホワイトハウス、或いはその跡地である。そして車は生気の無くなった町の側を停止することなく通り過ぎていく。この度の、越境調査に人員が投入されるが故に、町の再建計画は後回しにされている。不満は存在しているようだが、黙殺されている。避難民を各町に分配し、物理的に声を削いでいるのだ。あまりにもえげつない。伝え聞いているナナでもそうなのだ。内情を更に身に染みて理解しているであろうレミントン達の気持ちは察して余るものがある。
レミントンは、歌を口ずさみ続けた。ナナは、ふと町の方をじっと見つめるシックスの視線に気が付く。
「どうかしたの?」
「……もう、私達には関係のない事だ」
「そう」
車は徐々に離れていく。ナナは、朽ち果てた町の中央に鎮座する火桜揚樹を見た。巨木は灰の雨を降らしている。死に絶えた町の中、巨木は息づいていた。確かに関係のない事だ。自分達が何か、語るべきではないだろう。でも、あの大木はホワイトハウスの人々にとっては災いを齎したものであり、火桜の民にとっては祝福であった。
「境界監視団とは何でしょうか?」
不意に愛の園元リーダーが尋ねる。
「ようやく口を開いてくれたな」
スプリングフィールドが軽口を叩く。
「失礼ながら今まで皆様方を観察させて頂いておりました。よく見ろという話だったので。その為にノイズになりたくなかったのです」
「ノイズになりたくないから本当に黙っちまうとは真面目たな。それで、話っていうのが誰からのものなのか気になるとこだが、……まあ、良いだろう。友よ、この青年の質問に何と答える?」
「その前に、名前を伺っても?」
「サキマです」
「そうか。ではサキマ、質問に答えよう。魔女狩りが愛の組織だとしたら、境界監視団は勇気の組織だ」
「……何故、魔女狩りの話をするのですか?」
「サキマ、君は魔女狩りの人間だ」
レミントンは断言した。やはり、その程度のことは分かっていたようだ。もしかしたら事前に情報を入手していた可能性もある。
「……分断を煽るような言い方は良くなかったね。所属の違いはあれど、今は同じ舟に乗る仲間だ。いや、1つの方向を目指す両翼か。二羽を合わせて、今は境界監視団だからね」
「二羽、ですか?」
「知らないのかい? 境界監視団と魔女狩りにはそれぞれを象徴する鳥がいる。前者は勇敢なる駒鶫で後者は愛情深い渡鴉だ。私はこれ以上のことを語るつもりは無い。よく見ろと言われているのならばもっとよく見ればいい。それで分かることもあるだろう」
「分かりました」
サキマは答えた。




