第309話「仰ぐ空、繋ぐ夢」
「……この人はどなたでしょう?」
レミントンが尋ねる。
「愛の園の元リーダーだそうです。上にお守りを頼まれまして」
シックスが答える。
「そうですか。まあ、深くは尋ねません」
ナナ達は車に乗って、旧・ホワイトハウスに向かっていた。シックス、ナナ、スプリングフィールド、レミントン。そして旧境界監視団の面々の車が併走している。いつものといってもいい様な顔ぶれだが、異物が1人混ざりこんでいた。魔女狩りの高等審問官サイモンの事前の通告通りである。だが、シックスはそれを正直に申告するつもりは無い様だった。
ナナは元リーダーであるという青年の顔を観察する。暴動の引き金となった人間であるよういは見えない。ごく普通の人間に見える。そもそも愛の園の元リーダーという経歴を持つ人間がどうして魔女狩りと関りを持つようになったのだろうか。
「……彼の為に、私達の現在の目的を教えてあげてくれませんか」
シックスはずっと押し黙っている元リーダーを眺めながら言った。運転しながらスプリングフィールドが答える。
「うむ。――さて、境界監視団が無事、再結成された訳だが実は肝心なものが無い。つまり、飛行機を飛ばす場所が無い。勿論、ブラックガウンにも飛行基地はあるが、戦隊を編制するには手狭だ。そこで、これまで臨時拠点として使われ来た、旧・ホワイトハウスに沿岸基地を展開しようという算段だ。軍と魔女狩りの両方を動員できるからこその人海戦術による力技だな」
スプリングフィールドは熱心に説明するが、それを聞いているのかいないのか、元リーダーは依然として沈黙していた。
「そして、自分達はというとただ、ひたすら陸路を行くのみだ。飛行機は連邦中からかき集められ、後から輸送される」
調査へと出発するために、別の場所へ出発しなければならないとは実に迂遠なことである。しかし、どんな組織においても規模が大きくなれば、摩擦が生じることを考慮に入れれば事態は驚異的な速度で進行している。技術力故か。それとも愛国心といううやつが原動力なのか。
「ざっと、まあこんな感じだが」
スプリングフィールドは元リーダーの反応を待つ。しかし、元リーダーは無反応だった。
「……こんな感じでよろしかったでしょうか」
スプリングフィールドは諦めて、シックスに尋ねる。
「ええ、ありがとうございます」
シックスは礼を言った。それからも、黙する1人を除いて時折、会話をしたり休憩したりしながらナナ達は進んでいく。やがて段々と背後で日が沈んでいった。
「今日はここまでにしましょう」
レミントンの合図で車が停止する。ナナ達はてきぱきと野宿の準備を整える。そして、食事を用意し、皆で火を囲み、座る。何だかんだで皆、楽しそうに食事をとっている。彼らは今、どういった思いを抱いているのだろうか。
「あ、流れ星」
誰かが言った。皆、一斉に空を見る。皆、一様に、熱心に流れ星を探していた。流れ星に向かって、願いを宣言するという風習を聞いたことがあるが、彼らは流れ星を見て、何を夢見るのだろう。そして、ボクは――
「無事、帰れますように」
誰かが言った。




