第308話「有事」
「ではこれより、会議を始めます」
――連邦議会、それは連邦の行く末を決定する機関である。そして、連邦議会の決定こそが連邦における最高意思となる。議会こそが十三の町から成る連邦という総体の頭脳なのだ。或いはこう言い表すことも出来る。連邦の歴史とは結局の所、連邦議会の歴史であり、魔女狩りや軍が歩んできた道は傍流に過ぎない。
「本日の議題は――」
「お待ちください。型破りですが、先に参考人を召喚致しましょう」
議長が会議を進行しようとすると横やりが入る。
「ふざけるな。好き勝手しやがって」
「おいおい、手綱を握れていなんじゃないか、啓蒙派!」
「誰か、馬鹿の口を塞げ」
更に無作法な提案に反応して、あちこちからかヤジが入る。議長は押し黙ってしまう。
「まあまあ、落ち着いて下さい。貴方方の蒙を啓いて差し上げようと言うのです」
最初に横やりを入れた男、シャルルは言った。周囲の温度が上がっているのをシャルルは感じた。皆様方怒り心頭、といったところだろう。計算通りである。その為の型破り、その為の演技である。
シャルルの合図に応じて、門番が入ってくる。勿論、守衛という意味ではなく、唯一無二の門番である。
「伝えたいことは1つだけだ。聖なる存在は西の果て大都コーサカの地下で眠っている」
「戯言を。何を根拠にそんなことを言っている」
「彼は、先だってホワイトハウスに天罰を与えた御遣いですので。神の言葉を信じぬ者はいないでしょう」
シャルルは答える。
「血迷ったか、シャルル。災いを引き込んだ混沌を天罰とは。その上、境界を犯した者を御遣いなどと」
「承知の上だ。私が刑の執行を辞めさせ、シャルルに紹介したのだ」
その言葉に周囲は騒めく。それは、魔女狩り派として知られる男の言葉であった。すなわち、最も法に対して厳格である筈の人間の言葉である。
「……一体、何が起こっているのだ」
「目が覚めましたか? 既に決議は終了しているのです」
「……神聖なる会議を愚弄する気か」
シャルルは先ほどから逐一、反論してくる者のことを好ましく思う。他の者は最初からだんまりを貫いているのだから。もしや黙っていれば、嵐が過ぎ去るとでも思っているのか。だが、好感は覚えるが、惜しむらくは準備と調査が不足していた。
「必要なのは皆さんの承認でございます」
「何を認めろというのだ」
「魔女狩りと軍の共同部隊が、現在編成中なのはご存じでしょう?」
「ああ、境界の調査を名目にしているらしいな。そもそもそれが今日の議題であった筈だ。不用意に軍備を拡大しようとする軍と魔女狩りを糾弾する準備は出来ている」
不用意では無い。それどころか、先祖が大陸に辿り着いた頃より準備は始まっていた。だが、これは仕方のない事だろう。この大陸にやってきてからあまりにも時間が経ちすぎて、元々の悲願に自覚的でないものも多い。
「私達はずっと帰りたかった、そうでしょう」
「……それは、原住派に対して配慮の無い言葉では?」
もう些末をつつく気力しか残っていないのだろうか。どうでもいい反論をしてくる。
「もう、良いでしょう」
シャルルは手を打つ。静寂が生まれる。
「殆どの皆さんは身に染みて分かったようですし。それでは、皆さん――戦争を始める為のご承諾を」




