第30話「熱烈な歓迎」
ドゥーが言った少年が果たして、目の前の少年とイコールで結ばれるかは分からない。寧ろ、そうそう都合のいいことは起こらないだろう。ただ、そうした可能性を抜きに考えても記憶喪失の少年など厄介ごとの種でしかない。
ドゥーも含みを持たせた目線を少年に向ける。組合長には既に少年のことを連絡してある。ナナたちに接触してきたということはドゥーにも既に少年のことは共有されているのだろう。
「少年は記憶喪失です。少なくとも記憶が思い出されるまでは余計な推測はするべきではないでしょう」
アラカが口を開いた。
「ええ、もちろん」
ドゥーは返答する。
「まあ、怪しいに違いはないがな」
ダンが横から付け足す。
「事件について詳しくお願いします」
スーが話を元に戻す。
「倉が1つ消えた。村人によると気づいた時には吹き飛ばされたかのように倉が消滅していたらしい。そして少年も逃げるようにいなくなっていた。怒って当然だな」
サカイ村はそれ程、排他的では無かった筈だ。しかし、自分達の安全地帯が侵されるとなれば別だろう。
「だから、今、サカイ村に行くのはおすすめしないが、お前たちが頑張ると言うのならば別だな。手取り足取り支援しよう」
「どう言うことですか?」
ナナは尋ねる。
「サカイ村まで俺が同行するっていうこと。副議長に頼み込まれたからな」
ナナは溜息をつく。ドゥーは副議長にサカイ村に行ってはならないという提案を了承してもらえなかったと言った。間違いではない。しかし、いつの間にか、ドゥーは副議長に同行することを了承させている。全く、侮れない。
「さて、そろそろ行こうか。猿について行くようにお願いしてある。森を突っ切った方が早いからな」
ドゥーがナナの横に飛び乗った。猿が再び、進路案内を始める。
「……スーは一段と白さに磨きがかかったな。美しい限りだ」
ドゥーが言った。
「そうですか」
スーは他人事のように返事をする。ナナはチラリとスーを見る。スーが美しいのは確かである。ナナはそう思ったが口にはしなかった。
「ナナも可愛いよ。そして格好いい」
ドゥーの言葉には一切の緊張感がない。しかし、それも仕方ないことかもしれない。冒険における1番の脅威は動物である。その大半に処理出来る者に緊張感を持てと諭すのは無理があった。
「さて、着いたよ」
突然、森が開ける。そこには村が広がっている。木の柵に囲まれ、等間隔に監視台が設置されていた。
「ここが、サカイ村――」
ドゥーは言いかけて口を閉ざす。何かが風を切る音がした。ナナは馬車の後方を見た。矢が上空を飛び越え、地面に刺さっていた。いきなり殺気強めの挨拶である。
「熱烈な歓迎だな」
ダンが呟いた。
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