第27話「あけぼの」
早朝まだ薄暗い時間、ナナは目が覚める。今はアラカが周囲を監視していた。
「寝たら? ボクがスーに引き継いでおくよ。その前に日が昇るかもしれないけど」
「いや、いい。これが俺の仕事だ」
「そう、真面目だね」
ナナはアラカの隣に行く。アラカは馬車から少し離れ、馬車全体を視野に入れるように見張りをしていた。馬車では荷台に少年が、前方の御者席では副議長が横になっている。
ダンとスーは馬車の側で膝を抱える様に蹲って寝ていた。
バンカはどこにいるのかが分からない。恐らく副議長の側にいるのだろうが魔術によって姿を隠していた。ソロで活動するような腕の立つ様な冒険者がよく用いる魔術であった。規格外ではないが高難易度の魔術である。
「それで、起きて来て、俺に伝えたいことでもあるのか」
「……そうだね、ボクはアラカさんとダンさんのことも仲間だと思い始めているんだ」
「は、惚れっぽいな」
アラカが鼻で笑った。
「駄目?」
「仲間だと思うなら呼び捨てでいい。その方が万が一の時の連携もしやすいしな」
アラカが照れ隠しのように言った。少なくとも、初対面の時にアラカが抱いたマイナス感情は払拭出来たと思う。特にスーに関しては。ナナは残念ながらまだ目立った活躍をしていない。唯一明確に功績と言えるのはネズミの大群を追い払ったくらいだ。
「――それと、あんたらを侮って悪かった。俺は武術を極めて来た。見る目はあるつもりだったが偏見があったようだな」
「謝るのが早いよ。こういうのはもっと互いのことを知ってからやる会話でしょう」
「そうかもな」
アラカが小さく笑った。時間的にはまだ1日足らずである。しかし、一緒に危機を共有し、仲間となれた、ナナはそう信じている。
「まあ、仲間として上手くやっていこうね」
「ああ、そうだな」
その時、視界でスーが身震いをした。そしてすぐさま覚醒するとナナが起きていることを認め、駆け寄ってくる。
「ナナ、おはよう。アラカさんは寝ていいですよ。あまり眠れないかもしれませんが」
「このまま、俺が日の出まで監視をしようと思っていたが起きて来たのか」
「そうですか。優しいですね、アラカさん」
「呼び捨てにしてくれ」
アラカが言った。
「……仲間の証だって」
ナナが横から補足をする。
「ふふ、いいね。旅はまだ長い。ゆっくり理解を深めていきましょう」
実際の所、互いの立場上、多くは開示できないだろう。それに副議長、魔術師バンカ、記憶喪失の少年、検討しなければならない謎も多すぎる。
それでもスーの言った通りに出来ればいいのにとナナは心の底から思った。




