第25話「果てなき空、朽ちぬ夢」
「それで、あの空はどうやったら満足すると思う?」
ダンが言った。
「そうだね。何か目新しいことでもしたら、どうかな」
「目新しいことか」
「花火なんてどうでしょう。〈火矢〉を応用すれば、花火を再現できる。もしくは〈水矢〉で花水、〈雷矢〉で花雷とか」
「……試してみたらどうだ。それが有効だと言うのならば」
アラカは不機嫌そうに言う。
「そうだね」
スーが花火を打ち上げる。続いて花水、花雷。空はそれを覗き込むように動きを停止させた。スーは暫く、魔術を行使し続けた。
「はー、疲れました」
スーが魔術をやめた途端、空はまた接近を始める。もっと、遊ぼう、そう催促しているようだった。
「じゃあ、次は俺の筋肉で魅せようか」
ダンが、腕を突き上げるとポーズを取る。そして、前方に拳を突き出した。丈の高い草原、それを掻き分けるように衝撃が広がっていく。波紋が広がるように草が押し倒された。空はその様子を静観していた。
「ふむ、茶番はこのくらいでいいでしょう」
「今、何か仰いましたか、副議長?」
ナナたちが懸命に働いている間、副議長はずっと馬車に座っていた。側では御者が仕えている。
「……この今の現状こそが、六都連合の結成が望まれる最大の要因です。それを身を持って体験できたのは素晴らしい。だが、もう十分でしょう」
「――かしこまりました」
御者が立ち上がると、手を空に伸ばした。そして空中をなぞる様に手を動かす。そして上空に太陽が現れた。太陽の如き巨大な火球、それは闇を切り裂いた。果てなき空の彼方に星々が見える。そして、一瞬の後に滝のような大雨が降ってくる。ナナたちは馬車に乗り込む。気がつくと、馬車の周囲には巨大な水溜まりが出来ていた。鏡のように星空を反射させている。
「おいおい、どういうことだよ、こりゃ」
――雲に命が宿ったらどうなるのか、そんな想像をナナはしたことがある。雲は巨大な質量を有する。そして重いというのはそれだけで脅威である。“空”はそんな夢想が現実化したものであったのだろう。あるいは現実化させられたものと言うべきだろうか。
ただ、問題はそれではない。一面を覆う雲、それを蒸発させ、強制的に雨に変換した者がいる。御者、今回の旅に同行しているのだから只者ではないと思っていた。だが、只者ではないどころではない。完全なる規格外である。ナナは彼を知っていた。顔は知らない。彼はこれまで顔を見せたことがないから。しかし、彼の名声はよく知っていた。南都ナーラにおける『最強』の称号は彼の為にあった。
「魔術師バンカ――」
ナナはその名前をポツリと呟いた。




