第20話「旅」
段々と南都の象徴である城壁が小さくなっていく。
「なかなか立派な馬車だね。馬も毛並みが良かったし」
スーが隣に座るナナに囁きかける。
「ペガサスとの混合種らしいよ。残念ながら翼は生えなかったみたいだけど」
ナナは答える。
「おい、どうなっているんだよ、これは」
不機嫌そうな声が上がる。20代後半くらいの若い男だ。
「冒険者組合が優秀な人材を派遣するって聞いていたのに何だ、こいつらは。だから俺は最初から反対だったんだ。全く俺たちがいるっていうのに都議会は何で冒険者なんか使おうとしたんだ?」
「落ち着け。それに人を見た目で判断するものじゃない。俺には分かる。2人とも腕利きだ。……多分な」
40代初頭の男が宥める。少々頼りなさげだが、身体はしっかり鍛え上げられている。彼ら2人は、都議会の所有する軍隊から選出された護衛者だ。
軍隊と冒険者組合から2人ずつ、計4人が今回護衛任務に就くメンバーだ。そしてナナたちは今、荷台に乗って揺られていた。前方には護衛対象と御者が座っている。ナナたちはつい先程、顔合わせをし、すぐさま出発した。すごいテンポの早さだ。結局、休みも殆ど無かった。
「ねえ、自己紹介でもしましょうか」
スーが提案をした。
「おお、いいアイデアだな」
年長の男の方が同調する。
「さっき顔合わせた時も名乗ったが、俺はダンだ。そうだな、最年長のようだしリーダーに立候補させてもらおうかな」
「そうですね。まとめ役はダンさんがいいでしょう。では次は私。スーと申します。攻撃魔術が使えます」
「ボクはナナ。〈シズカ〉とか〈ヒダネ〉とか支援魔術が得意」
「……アラカだ。武術全般得意だ」
「一方の俺は、力押しだ。技巧がないからパワーで何とかする」
横からダンが口を挟んだ。
「いい感じに役割分担できそうだな。まあ、その辺は考えて俺たちが選ばれたんだろうが」
しばらく無言が続いた。平和だった。この辺はまだ緩衝地帯だ。草木が根絶やしにされ、何もない。何もない所には何も寄り付かない。壁は無いが一応の安全区域である。だが、間もなく緩衝地帯を抜ける。草木がポツポツと生え始めていた。
今回の仕事は冒険ではなく、護衛のため、わざわざ危険に向かっていくことはないが向こうから危険がやってくる可能性は十分にあった。そしてついに緩衝地帯を抜け馬車は丘陵を登っていく。ナナは気を引き締める。――それから馬車が止まる。
「何か、あったようだな。状況確認だ」
ダンはそう言うと馬車を降りて前方に回り込む。ナナたちも共に向かう。そこには困惑した御者が立っていた。御者はまっすぐ前方を指差すと言った。
「……人が寝ております」




