第2話「冒険者組合」
南都ナーラその堅牢な城門を抜けて、すぐそば、商人達で賑わう通りに冒険者組合は設置されている。石造りのその建物は威圧感を与えるが、一方で都民に安心感をもたらしている。
商売が盛んな場では何かといざこざも絶えないが、冒険者組合が守ってくれるという、そういう信頼が冒険者組合には預けられている。
ナナは表門から、建物の中を覗く。沢山の冒険者が仕事を求めて集まっていた。仲間と共に楽しそうに談話する者もいる。
ナナはしばらくその様子を眺めていたが、我に帰るとその場を離れて裏門に回った。
一定のリズムで扉をノックすると、静かに扉が開錠される。そして、ゆっくりと扉が開いた。
「ただいま」
ナナは満面の笑みを浮かべる。
「お帰り、ナナ」
ナナはその声を聞くと言葉が詰まった。そして、差し出された両腕に身を任せて力強く抱きしめられた。
「ああ、スーのいい匂いがする」
「ちょっと、やめてよ」
スーは顔を赤らめた。色白な頬が薄い朱色に染まっている。とは言え、スーはすぐに気を切り替えて言った。
「ナナ、組合長が待っている」
「そっか、また後でね」
ナナは組合長室に向かった。扉の前に立つと気配を察知されたのか声が聞こえる。
「入りたまえ」
ナナは部屋に入った。部屋の中央では組合長がどっしりと座っていた。組合長は既に白髪が混じる初老の男だが、若い頃、冒険者として培ってきたであろう筋肉は未だ衰えず、ひどく重圧感がある。
「帰還いたしました」
「うむ、ご苦労」
「それで、報告なのですが――」
「いや、いい。既に知っている。今、詳細を聞く必要はないだろう。後で記録にまとめてくれるだけで十分だ」
「……分かりました」
「お前にはすぐに次の任務に向かってもらわなければならない」
「はい」
「愛の園を知っているか?」
「ええ、ハーレムを形成する冒険者集団ですね」
「その通りだ。そして奴ら、というよりリーダーであるエハドが中毒性の高い媚薬を町に持ち込み流通させているという情報を掴んだ」
組合長が立ち上がる。組合長はナナを見下ろしながら言った。
「お前にはことの真偽を探ってほしい。今回は相方としてスーをつける。――おそらく適任だろう」
スーは色白で、小柄で、可愛らしい外見をしていた。ハーレムの一員としてピッタリだろう。だが、ナナには受け入れ難かった。
「スーを潜入させるということですか?」
ナナは感情押し殺して言った。
「ああ。スーには表から情報を探ってもらう。お前は裏からそれを補佐する」
ナナはしばらく沈黙したが、口を開く。
「分かりました」
ナナには受け入れ難かった。しかし、スーも冒険者組合エージェントの一員だ。任務を拒否するという選択肢は無い。
その後、ナナは組合長から愛の園についての詳細説明を受けると、組合長室から出た。
「あ、ナナ話聞いてきた?」
「うん、今回は一緒に仕事なんだね」
「そうだね。潜入調査、普段、私は堂々と外に出ることがないからドキドキしちゃう」
ナナはスーを抱きしめる。
「大丈夫、ボクがちゃんと支援するから」
「うん、そうだね」
スーは笑った。釣られてナナも笑う。
大丈夫きっと上手くいく、ナナは心の中でそう唱える。口には出さなかった。




