第198話「直交」
「取り敢えず、南都ナーラに戻ろう。ここからは転移が出来るんだよね?」
朽ち果てた町で沈黙を破るようにスーが言った。
「うん。でもちょっと数が多い。単純に吹き飛ばすなら可能だけれど、狙った所へ飛ばすとなると数が多いと難しい」
エイユーがスーの提案に追従するように答える。
「そう。――皇女様はこれから、どうなされますか? ご助力には感謝しております。安全な場所までお送りいたしましょう」
「ああ、そうですわね。私はもう用無しでした。私はどうしたらよろしいのでしょう」
「そのような意で申し上げたのではございません。皇女様は私たちに期待してくださったでしょう。その期待には応えたいと思っております」
「そうね。お2人なら、何か現状を変えられるのではないかと思いました」
「ええ。ですから皇女様の希望を仰ってください」
「私は、行く末を最後まで見届けることとするわ」
「分かりました。それでは私とエイユーだけ南都ナーラに戻ることにしましょう。ナナ達は新都カバネクラを目指して。――ことはなるべく迅速に進めなければいけない」
「分かった」
ナナは端的にそう答える。
「よろしく」
スーとエイユーは姿を消した。
「では、ボク達は新都カバネクラに向かいましょう」
「そうね」
ナナ達は馬車に戻る。馬車を引くペガサスは飛び上がり、進んでいく。
「あれは、何かしら?」
皇女が窓の外を指さした。
「いや、知っているかもしれないわ。直接見たことは無かったけれども。あれもお遣いね。人型ではないようだけれど。随分と平べったくて、そして大きい」
ナナはそれまでに2度、それに遭遇している。1度目は脅威として、2度目はドゥーの使役する生き物として。ナナ達が空と呼んだ人工生物だった。そして、それは馬車の進行方向と直行するように接近してくる。それを回避するように馬車は急旋回する。
空は、尚、馬車に接近してくる。
「ドゥー、そこにいるの」
ナナは叫んだ。返事は返ってこない。――直接には。耳飾りから、声が聞こえる。
「まさか、馬車の中か?」
「ドゥー、ボクは馬車の中にいる。これ以上接近してこないで」
ナナは、また叫んだ。
「厄介なことになったな。まさか、事実だったとは」
一体、何の話をしているのだろうか。
「悪いが、馬車はここで堕とさなければならない」
空が、馬車の側面に衝突した。馬車が崩壊する。ナナ達は真っ逆さまに落下する。刹那に思考が駆け巡る。さて、どうしようか。どうしようもない。
ナナは地面に落下した。




