第191話「空と夢2」
均質な光が降り注いでおり、周囲を上手く視認することが出来ない。ナナは真っ白な世界にただ1人だった。先程まで座っていた椅子も消失しており、ナナは地面にへたり込む。
「スー?」
ナナは立ち上がって、呼びかけるが返事は無い。
「スー?」
続いて、指輪で呼びかける。やはり返事は無い。
椅子に腰掛けたのは迂闊であっただろうか。だが、何故か引き寄せられるように座ってしまった。何故だろうか。操られていたとは思わない。ナナは自らの潜在意識の働きを感じていた。
ナナは光の中を歩く。そう、何も存在しないとは言え、歩くことは出来た。それならば進むことが出来る。ナナは不安を押し殺してひたすら歩く。少なくとも絶望の暗闇よりは幾らかマシな筈だ。
――同じ所を周回している気がする。不安が極限まで増大した時、声が聞こえた。
「久しぶりだね」
声の発生源は掴めない。ナナは立ち止まる。確かに懐かしい声だった。
「誰ですか?」
懐かしい気がする。しかし、もう2度と聞くことの出来ない筈の声である。
「……先生と呼ばれていたよ」
「先生は死んだ」
先生だけで無い。みんな、もういない。ナナは暗闇に溺れそうになる感覚を覚える。
「そうだね」
「では、誰なんだ」
「過去、かな。ここは己の内面を映し出す鏡の世界だ」
「ボクの内面には何も無いっていうこと?」
「いいや、光で満たされているではないか」
「せん……せいは、何故現れたの?」
「そうだね。何か、知りたいことがあるのではないか?」
「ボクの知りたいこと」
そう言われても思いつかない。いや、実際、分からないことだらけだ。北も南も皆、何を考えているのか分からない。だが、そんなことを己の心に問うても仕方のないことだろう。先生に聞くまでもない。
「ボクは――」
ナナは思案する。何を言うべきかな
「ボクは未来が知りたい。未来をどう選択すればいいのか」
「そうだね、何を大事にしているか、それを見つけることが大事だ。そして大事なものを守り抜く勇気と、それ以外を切り捨てる勇気を持つことが大事だ。何せ、人生は短い」
「ボクは、仲間が大事だ」
それはナナにとって既に知っていることだった。これは過去の再現だ。こんなことで今更、思い悩むことは無い。
ナナに、結局のところ、問うべき質問などありはしなかった。だから、最も大事にしていることを、もう一度尋ねた。そして、かつてと同じ会話を交わした。
「誰なんだ?」
それっぽいことを言われた。だが、必然性が無い。先生が心に現れる理由なんて無い。
「……やれやれ、強いね。誤魔化されないとは」
先生の声は答えた。




