表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナナの世界  作者: 桜田咲
第1章「天路歴程」
189/331

第189話「杞喜-再演」

 最も確かなものとは何だろうか。実に素朴な疑問だ。


 頭上に広がる空は確かなものだろうか。けれども、疑り深い者、或いは実際にその現象を体験した者は、空が落ちてくるかもしれないと考えることだろう。


 足元から伸びていく大地は確かなものだろうか。人は大地に生まれ落ちて、成長していく。偉大なる大地は命を育む。だが、大地は地下に眠るものを覆い隠す。大地は内包する全てを詳にすることは無い。


 それでも上に天があり、下に地がある、その事実は覆し難い、確かなものとして存在していると思う。もちろん逆立ちすれば天地を逆とすることは出来るが、天から地へと向かうその方向性の力は疑いようが無い。

 

 だが、もしその確かな力が反転したら何が起こるのだろうか。


 ナナは窓から外を眺める。地面は遥か彼方にあった。そして未だに落下を続けている。いや、引っ張り上げられているといった方が適切か。兎に角地面に落ちるのとは逆である。そうして随分と長い間、落下し続けているように感じたが、実際には刹那のことであったかもしれない。馬車は落下を停止した。衝撃は無い。幸い馬車が破損することも無かった。


「降りましょう」


 皇女が言った。扉が開けられる。御者が現れ、手を差し伸べる。ナナ達は順に馬車から降りた。


「ここはどこかしら?」


 足元には一面に水が湛えられていた。小波ひとつ無く、姿見のように自身の姿が見える。ナナは足元から目線を逸らした。そして周囲を見る。何も無かった。遮るものは無い。


「地面が見える」


 スーが言った。ナナは足元に目線を戻す。目線を凝らすと、水を透かして、眼下に地面が見えた。ナナは身震いをする。


「落ちないのかしら?」


 皇女が言う。本来の意味での落ちるだろう。天から地へ向けての落下。いつ、水面をすり抜けて落下するかは分からなかった。


「何か、この現象や場所に心当たりはありますか?」


「無いわ」

 

「私もありません」


 御者の少女も答える。


「ここには誰か、いないのかな?」


 エイユーが言った。人影は見当たらない。遮蔽物も無い。だが、エイユーの言葉に呼応するように人が出現した。逆立ちの少年。器用に両手で立ち、無表情にこちらを見上げている。そしてゆっくりと歩き始めた。


「着いて来いということかしら」


 一同は馬車に戻るとゆっくりと追跡する。馬にとっても驚愕の体験であった筈だが、さすがはペガサスということだろうか。足取りはしっかりとしていた。馬が少し進む度に周囲の様子は様変わりしていく。道が現れた。木々が現れた。町が現れた。惑わされているのだろうか。


 砂漠は時に嘘をつく。果たして、この水面の世界はどうであろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ